山陰の暫定2車線問題 海外編 韓国(5) 国策の在り方

安全最優先 先例に学ぶ

 「遅くて危険な暫定2車線ができたのは政治の責任だ」。南原(ナムウォン)市の元国会議員姜東遠(カンドンウォン)さん(64)は2000年代、政府などに光州大邱(カンジュテグ)線(延長176キロ)の早期4車線化を訴え続けた。

 韓国は1992年、対向車線へのはみ出し死亡事故が多発した暫定2車線(片側1車線)区間の新規着工をやめ、供用済み区間(約700キロ)も2001年までに4車線以上に改良する方針を決定。高速道路が地域振興に果たす役割の大きさも重んじて決断した。

 2004年当時、高速道路総延長2923キロのうち唯一、暫定2車線のまま残ったのが、最も危険とされた光州大邱線。光州、大邱両市郊外の約30キロを除き、山間部や人口の少ない約140キロの区間は4車線化計画が棚上げになっていた。

 南原は中世の物語を題材にした公園や時代劇のロケ地などがあり、観光が基幹産業だ。住民は「安全な高速道路で観光客誘致を」と思いを募らせていた。


交通量がネック

 残った140キロ区間の改良事業が足踏みした理由は交通量の少なさだった。

 韓国の高速道路の着工判断は、地域振興の効果とは別に日本と同様の「費用便益比」を考慮する。走行時間短縮などの効果を金額換算した便益(B)が総費用(C)を上回るかどうかを示す数値(B/C(ビーバイシー))が「1・0」を超えることが着工の基準。交通量も重要で、新規着工は上下線で1日4万2千台以上が目安だ。

 光州大邱線は当時、B/Cが0・9、南原周辺の交通量は1日約1万5千台。基準に達していなかった。04年の韓国の道路予算は8兆1千億ウォン(当時のレートで8067億円)で、同線の4車線化事業費は2兆6559億ウォン(約2645億円)。懐具合の厳しさも、金額上の「採算」が合わない同線の4車線化にブレーキをかけた。

 事態を好転させたのは、政府系シンクタンク・韓国開発研究院が、金に代えられない「命」に目を向けて07年に示した調査報告だ。

 「事業の妥当性よりも、国内唯一の2車線高速道として道路機能と安全性に根本的な問題があるという点を勘案し、適正費用を検討すべき」と、採算性に偏った判断に警鐘を鳴らした。

 翌08年、同線の4車線化が決定。対象区間には歓迎する看板が掲げられた。改良は15年末に完工。はみ出し死亡事故は撲滅された。


打開策の議論を

 日本でも05~14年に暫定2車線区間の事故で119人が死亡。死者数は4車線区間の約40倍に及んだ。暫定2車線が9割を占める山陰両県でも11~16年に同車線で23人が死亡。4車線区間(死者3人)と比べ、命を失うリスクは高い。

 国土交通省はスウェーデンを参考にして、暫定2車線中央部のゴム製簡易ポールをワイヤロープ式防護柵に付け替える緊急対策を決定。山陰自動車道江津道路と中国横断自動車道広島浜田線を含む12路線で試し、対象路線拡大を検討する。命を守る策は前進した。

 ただ、高速道路の役割は人と物の移動時間を短縮して地域や経済を浮揚し、急病搬送などのルートを確保することにある。安全性の確保はその手段、出発点であり、目的やゴールではない。韓国の姜さんは「日本にまだ暫定2車線があることに驚く。地域振興と安全確保のため、4車線化するべきだ」と力説する。

 採算性にとらわれず巨費を投じた韓国と、既存道路を活用して費用を抑えたスウェーデン。手法は違うが、ともに国策として取り組んだ。日本の高速道路はどうあるべきなのか。

 山陰両県は命を守り、地域振興を図る条件にハンディがある。地域の将来を見据えて打開策を議論し、行動を起こす必要性を、韓国やスウェーデンの歩みは物語っている。

=おわり=

2017年4月28日 無断転載禁止