北枕

 子どもの頃、布団を敷くときに、北側に頭が来ると「縁起でもない」と叱られた。俗に言う「北枕」だ。それから半世紀余り。県外であった親族の法要の席で住職が迷信の一つに北枕を挙げた▼その住職の説明では、お釈迦(しゃか)様が亡くなる際、頭を北にしていたことから故人を安置する姿に使われたようだ。本来は「頭北(ずほく)面西右脇臥(めんさいうきょうが)」と言い、頭を北、顔を西、右脇を下に横たわる「涅槃(ねはん)像」の姿勢で、縁起が悪いとするのは迷信なのだという▼半信半疑で、念のため松江市出身のインド哲学者・中村元さんが訳した『ブッダ最後の旅』をめくると、確かに沙羅双樹の間に北向き横たわる記述があった。修行僧に薦めた寝方で、インドでは教養のある人の寝方とされた、と注釈も付いていた▼もう一つ話題になったのが会葬礼状に添えてある「清め塩」の小袋。「仏教では死を『穢(けが)れ』として扱うことはない」とのこと。地域によっては、その旨を書いた枝折(しお)りを塩の代わりに入れる取り組みも始まっているらしい▼死や血を「穢れ」とする風習の名残は今もあり、「うつる」のを忌む感覚も根強い。ただ、そうした意識は一方で差別やいじめにつながりかねない。おまけに潔癖症の人の増加や、感染症への警戒意識も高まっている▼原発事故の福島から避難した子どもたちへの心ない言動が昨年後半から各地で問題になる。子どもは大人の姿を見て育つ。迷信と指摘される振る舞いを含め、大人の何げない言動を、子どもたちが倣っていなければいい。(己)

2017年5月5日 無断転載禁止