うつヌケと五月病

 脳が濁った寒天で包まれる-重いうつ病を体験した漫画家の田中圭一さんはうつの症状をこう表現する。その長いうつ病のトンネルを抜け出た田中さんの体験を基にした漫画「うつヌケ」。漫画ならではの分かりやすさと「苦しんでいるのは自分だけではない」と共感が共感を呼び先月下旬で18万部のベストセラー▼ギャグ漫画の達人と言われる田中さん自身の闘病体験を中心に思想家の内田樹さん、ロックミュージシャンの大槻ケンヂさんら有名人がうつ病からどう脱したかを追体験できるような描写▼サラリーマンと二足のわらじを履く田中さんがうつ病と闘った10年間。その苦しさは体験した人以外にはほとんどコミュニケーション不能。しかし、その苦しさと付き合う方法さえ見つければ怖くないという▼その方法は「ナルシズムの勧め」。ナルシズムは自己愛の意味だが、自分を好きになることがこの病気と付き合う最良の道とたどり着いた。裏返せばこうしなければならない、こうあるべきだと自分に宿題を課し、達成できなければ自分を責める。その自責の念が自分嫌いを引き寄せる▼うつ病とよく似た症状が表れるのが五月病。入学、入社、転勤などから1カ月。一年中で最も美しく過ごしやすい季節は、環境変化と向き合う心にとってメイストームと呼ばれる急な嵐に遭遇しやすい時期でもある▼慣れない環境に張り詰めた心がどこへ向かおうとするか節目のころ。下を向こうとする気持ちに自己愛を注ぐ今日八十八夜の風薫れ。(前)

2017年5月2日 無断転載禁止