北朝鮮と地域安保/ASEANの窓口維持を

 東南アジア諸国連合(ASEAN)はフィリピンの首都マニラで首脳会議を開き、北朝鮮の弾道ミサイル発射や核実験に「深刻な懸念」を表明する議長声明を発表したが、各国に衝撃を与えた金正男(キムジョンナム)氏殺害事件に触れることは避け、歴史的に培ってきた北朝鮮との友好関係を今後も保つ姿勢を示した。

 ASEANは、アジア太平洋地域の安全保障問題を話し合う唯一の多国間協議の枠組みといわれるASEAN地域フォーラム(ARF)などを通じ、北朝鮮と国交のない日本や米国に協議の場を提供してきた。

 北朝鮮の核問題を巡る6カ国協議再開の見通しが立たない中、ASEANが朝鮮半島情勢などアジアの安保協議における窓口の役割を引き続き果たすことを期待したい。

 北朝鮮は1960年代にインドネシア、カンボジア、70年代にマレーシア、タイ、シンガポールなどと国交を結び、各国は北朝鮮と共産圏以外の窓口になってきた。中でもマレーシアは、94~95年に北朝鮮が核拡散防止条約(NPT)脱退を宣言、黒鉛減速炉の燃料棒取り出しを強行した危機などで、米朝協議の場を積極的に提供してきた。

 日中韓、米国、ロシア、欧州連合(EU)などが参加するARFは、94年から毎年閣僚会議を開催している。北朝鮮は2000年から参加し、当時のオルブライト米国務長官と白(ペク)南淳(ナムスン)外相による初の米朝外相会談が同年実現した。

 日本も、04年の川口順子外相と白南淳外相の会談で、拉致被害者の曽我ひとみさんと北朝鮮に残る家族をインドネシアで再会させることで合意するなど、ARFの場を北朝鮮との話し合いに活用してきた。

 北朝鮮、米国、日中韓、ロシアの6カ国協議が行われた03~08年には、6カ国協議の枠組みが将来、アジアの安保協議体として育っていくことへの期待が膨れた時期があった。しかし近年、6カ国協議は再開が見通せない状況が続いている。

 問題は、2月にマレーシアのクアラルンプール国際空港で起きた金()正男氏殺害事件によって、北朝鮮と各国の関係にひびが入ったことだ。

 殺害現場になったのはマレーシアだが、実行犯としてインドネシア人とベトナム人の女2人が起訴された。殺害の「予行演習」はマレーシアのほか、カンボジアでも行っていたという。

 これら各国では北朝鮮に対する批判が渦巻き、外交関係見直しを求める声もあるが、各国政府は今のところ外交関係の悪化を避ける姿勢だ。今回のASEAN首脳会議で、金正男氏殺害が正面から取り上げられなかったのはマレーシア政府の意向だったといわれる。事件の真相究明は粘り強く続けてほしいが、マレーシアから北朝鮮国籍の容疑者が出国したことで事実上幕引きの形となっている。

 トランプ米大統領は、北朝鮮に核放棄を迫るため軍事的圧力や経済制裁を強化する一方、金(キム)正恩(ジョンウン)朝鮮労働党委員長と「適切な状況であれば会うだろう」と対話の用意も示し、硬軟両様で北朝鮮を揺さぶる戦略のようだ。

 対話のチャンネルや機会は多く持っていることが望ましい。ASEANはその一翼を今後も担ってほしい。

2017年5月5日 無断転載禁止