慣性の法則

 動く物体は、何かが止めるまで運動を継続しようとする。「慣性の法則」だ。厄介なのはそれに安易に同調し、乗っかると、動く意味も分からないまま望まぬ方へ連れて行かれるか、急停止の将棋倒しで大けがをする▼北朝鮮が核ミサイルをちらつかせ、緊張を高めている。核放棄を迫るトランプ米政権は、日本海に空母を展開し、朝鮮半島に迎撃ミサイルも配備。東アジアには物騒な鉄の塊が動きを止めない▼米朝間のチキンレース。先に降りた方が「弱腰」の烙印(らくいん)を押され政権の求心力を失う恐怖心からか、互いに引くタイミングが見つからない。そこで米政権は中国に歩み寄り出番を求めたが、中国は説得役は果たせないと言いだした▼朝鮮戦争で後ろ盾となった中朝の「血盟関係」は昔の話。何を言っても耳を貸さない、と諦め顔だ。しかし、ミサイルどころか銃弾一発、偶発的な衝突が起きればどう転ぶかは予測できない。日本が巻き込まれる可能性は消えていない▼どうせ北のミサイルは届かない、という楽観論から米国本土の関心は薄く、韓国も政治的混乱にかまけて切迫感がない。日本は真面目に向き合っている。ならばなおさら、動きに乗っているだけでなく、ブレーキ役を買って出るのもあり方だ▼旧ソ連の指導者フルシチョフは、苛烈な実経験から語っている。「戦争は小銃の偶発から始めることができる。しかし終結させることは、経験豊かな国家指導者でさえ容易な事ではない。流血をとどめるのは、ただ理性だけである」(裕)

2017年5月13日 無断転載禁止