精神保健福祉法改正/不安の払拭が不可欠だ

 相模原の障害者施設殺傷事件を踏まえ、政府が国会に精神保健福祉法改正案を提出した。19人殺害の罪などで起訴された植松聖被告は事件前に「他害の恐れがある」と診断され措置入院となったが、退院後に所在不明になった。前兆がありながらその後の凶行を防ぐことができなかったことが教訓になっている。

 退院後の支援が不十分だったと専門家の報告書は指摘。措置入院制度の見直しが進められ、法案は行政が医療機関とともに患者の「退院後支援計画」を策定することを定める。その中で、策定に当たる地域の協議会に警察が参加することなどに、障害者団体や弁護士、医師らの一部が「監視強化」と反発している。

 参院での審議入り後、厚生労働省は国会議員向けに法案の概要を説明した資料の「改正の趣旨」から「二度と同様の事件が発生しないよう法整備を行う」などの文言を削除。犯罪防止や監視が改正の目的ではないと強調したが、野党は「改正の理由がなくなった」と批判している。

 政府、与党は今国会中の成立を目指す。措置入院患者に退院後も治療などの支援を継続し、社会復帰につなげていく仕組みを整えることに異論はない。ただし患者や家族らが抱く不安の払拭(ふっしょく)が不可欠だ。それなしに新たな制度を有効に機能させるのは難しいだろう。

 相模原事件を巡り、厚労省の有識者検討チームは昨年12月に「措置入院からの退院後に支援を受けられる仕組みがあれば、事件は防げた可能性がある」との報告書をまとめた。

 これを受けて法案は強制的な措置入院を決めた自治体が「精神障害者支援地域協議会」を設置し、患者の入院中から個別に退院後支援計画を策定するとしている。

 患者が退院後に居住する自治体が支援計画に基づき相談指導を実施。協議会には自治体や医療機関、障害者団体のほか警察も参加し、他害の恐れが精神障害によるものか判断が難しいケースへの対応なども協議する。

 相模原事件では植松被告の不穏な言動などが行政や施設、警察で十分に共有されず、措置入院を巡る関係機関の連携が課題となった。

 これに対し、障害者団体などは患者への監視が強まると不安を示している。また、塩崎恭久厚労相の記者会見、国会議員向け説明資料で「再発防止」が強調され、質疑では「精神科医療に犯罪防止の役割を担わせるのはおかしい」などの声が相次いだ。

 先月下旬、塩崎厚労相は資料の文言削除を明らかにして「混乱を招いた」と謝罪したが、当事者の不安解消のためさらなる説明が必要だ。

 措置入院制度の見直しについては当初から「監視の目的が透ける支援で信頼は得られない」などの指摘があった。政府は再発防止を優先するあまり、配慮を欠いた部分があったのではないか。

 措置入院で薬物使用が明らかになれば例外的に警察に任せるなど、医療との役割分担を明確にしなければならない。相模原事件では、障害者への差別や偏見が根強くあることがうかがわれた。患者や家族らが監視の目を向けられるのを恐れて治療や相談をためらうようだと、支援の継続は困難になるだろう。

2017年5月18日 無断転載禁止