世事抄録 坊主バー

 東京・四谷の路地の奥にあるバーは一風変わっていた。奥には立派な仏壇が設けられ、カウンターには僧侶が立つ。店内では定期的に法事が営まれるほか、客から「お題」をもらって日に2回は法話もあり、輪袈裟(わげさ)を掛けた僧侶が客の悩みの相談にも応える。

 代表者の田口弘願さん(56)は浄土真宗大谷派(東本願寺)の僧侶。スタッフには浄土真宗本願寺派(西本願寺)や禅宗の曹洞宗の僧侶、真言宗の住職が宗派を超えて顔をそろえる。

 田口さんは視覚に障害があり、中学で壮絶ないじめに遭った。師となる僧侶との出会いから仏道に進み、大谷派の宗門職員になったが、完全に光を失って退職。市井で布教する道を歩み出したころに「オウム事件」が起きた。オウム信者の若者が言い放った「寺なんか風景。何の役にも立たない」という言葉が今の「坊主バー」を開くきっかけとなった。

 「自分探しとかよく聞くけど、愚かな自分の問いかけに愚かな自分が答えても、愚かな答えしか返ってこない。それなら、誰かに探してもらえよとよく言っているんですよ」と田口さんは語る。法話の内容いかんで帰ってしまうお客に鍛えられ、どんなお題でも答えられるようになった。生きる意味を見いだすには「ありのままに毎日を丁寧に生きること」という言葉が耳に残った。
(出雲市・呑舟)

2017年5月18日 無断転載禁止