米政権のロシア疑惑/解明に協力すべきだ

 昨年の米大統領選でトランプ大統領陣営がロシアと共謀して民主党のクリントン候補に損害を与えたのではないか、との疑惑で米司法省は特別検察官を任命して捜査することを決めた。大統領選挙の正当性という米国民主主義の根本に疑問が突きつけられており、展開次第では大統領弾劾に発展する重大事態だ。トランプ大統領はこれ以上の政治混乱を防ぐために、疑惑解明に協力すべきだ。

 今年1月の就任以来トランプ氏は、民主党、メディア、情報機関を「敵」とする対立型の政権運営を続け、目立った成果を上げていない。政府高官人事も大幅に遅れている。ロシア疑惑の深まりで政権運営がさらに空転し、米国の指導力の一層の低下を招きそうだ。

 ロシア疑惑は昨年夏、民主党のクリントン氏に不利となるような情報がハッカーに盗まれ公開されたことが発端。調査した米情報機関は今年1月ロシア政府関連組織によるサイバー攻撃との結論を発表、米ロ関係の改善を掲げていたトランプ氏とロシアとの間に何らかの共謀があったのではないか、という疑惑に発展した。

 トランプ陣営とロシアの共謀の事実は確認されていない。しかし国家安全保障問題担当補佐官を務めたフリン氏が政権発足前に駐米ロシア大使と何度も協議したほか、陣営の関係者がロシア側と接触したことが判明している。

 この疑惑の捜査を進めていたFBIのコミー長官が5月9日、トランプ氏に解任されたが、その直前にトランプ氏から捜査の終結を求められていたと米メディアは伝えている。FBIに対して捜査の中止を求めることは、司法妨害にあたり弾劾に相当すると宣言した民主党議員も現れた。

 トランプ氏はコミー氏に、自分が捜査対象でないことの確認も求めたという。捜査に圧力をかけたとみるのが妥当だろう。一連の動きは大統領として適切でない。

 民主党やメディアはトランプ氏の移民排除の政策や記者会見の軽視、一部メディアを「偽報道機関」と呼ぶ手法などは、民主主義原則の軽視であると批判してきたが、ロシア疑惑の深まりでトランプ氏攻撃を先鋭化させている。トランプ氏はロシア外相との会談で、同盟国から入手した機密情報を伝えたという間違いも重なった。

 世論調査ではトランプ氏の支持率が38%と就任後最低を記録した。与党共和党支持者でトランプ氏を支持しないとの回答も上昇しており、その政治基盤は揺らいでいる。

 過去の米大統領の弾劾手続きでは、ウォーターゲート事件でニクソン大統領が任期途中で辞任を余儀なくされ、クリントン大統領が不倫疑惑で弾劾訴追されたが、無罪となった。弾劾手続きが始まれば、捜査当局、議会側と大統領側の駆け引きや対立で長期間にわたり米政治は空転し、国の分断も深まる。

 北朝鮮の核・ミサイル開発問題や中東情勢など米国の指導力が必要な課題は山積している。トランプ氏は中東・欧州歴訪中だが、政権が不安定化したことで各国とも戸惑っているのが現状だろう。特別検察官の冷静な捜査はもちろんだが、大統領が敵対的な態度を改めて、捜査に協力することが不可欠である。

2017年5月23日 無断転載禁止