風の人、土の人

 中海干拓淡水化事業の賛否をめぐって揺れたころ、推進派から「風の人」という言い方での批判をよく聞いた。ずっと土地に暮らしていないのに環境問題で騒ぐな、との意味合いだった。時代が変わり、今では逆に「風の人」に対する期待が高まっている▼その土地で生まれ育ち、地域のことをよく知る「土の人」だけでは意外に気付かない、地域の魅力や可能性。Iターン者などが、違った視点からそれを見つけ、地域を変えるチャンスを運んでくれるかもしれないからだ▼考えてみれば当地は、文化や観光で今も「風の人」の遺産により大きな恩恵を受けている。文学者ラフカディオ・ハーンを筆頭に、茶の湯文化を根付かせた松平不昧も、いわば「風」と「土」が半々。石見では万葉の歌人・柿本人麻呂が各地に足跡を残している▼さらに歴史ファンが増えている今は、いずれも隠岐に配流された後鳥羽上皇や、来年が即位700年になる後醍醐天皇も、取り組み方次第では、全国に通用する広い意味での「風の人」に仲間入りできる可能性を秘めている▼地域づくりは、過去・現在・未来という長い時間を通じた「風の人」と「土の人」の出会いと交流から生まれる合作のようなもの。江戸学で知られる田中優子さん(法政大学総長)の言葉を借りれば、文字通り「風」と「土」を合わせて「風土」なのだという▼「土の人」が耕してきた畑に「風の人」が運んで来る種をまいて共に育て実りの時を待つ。その日々が地域の希望につながる。(己)

2017年5月25日 無断転載禁止