家庭教育支援法案/丁寧な説明を求めたい

 自民党は「家庭教育支援法案」の今国会提出を目指している。政府や地方自治体、学校、地域住民などが連携して家庭教育を支援する体制を整備するのが目的だが、家庭への公権力の介入を招きかねないとの懸念も指摘されている。法案の内容について十分な議論を求めたい。

 法案は15条から成る。最も注目すべきは「基本理念」を定めた第2条で、家庭教育の在り方として「父母その他の保護者が子に生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努める」などとうたっている。

 「目的」を定めた第1条では、現代の家庭を巡る環境の変化として「同一の世帯に属する家族の構成員の数が減少したこと、家族が共に過ごす時間が短くなったこと」などを挙げている。

 法案を一読しただけでは、大きな問題はないような印象を受ける。ただ法案が作られた過程を振り返り、安倍晋三首相ら法案を推進する自民党議員の発言と照らし合わせると、「伝統的」な家族と子育てを理想化する価値観がうかがえる。

 基本理念で望ましい家庭教育の形を示しているだけでも、家庭への介入と受け止める人がいるだろう。しかし、原案はもっと露骨だった。基本理念には、保護者が「子に国家及び社会の形成者として必要な資質が備わるようにする」ことが明記されていたが、批判を恐れたのか、最終案で削除された。

 この経緯を知ると、家庭教育を通じて国家に奉仕する子どもを育てることこそ、自民党がこの法案に込めた真の狙いではないか、と思えてしまう。

 家族に関する立法は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚しなければならないことなどを定めた憲法24条との関連も重要である。自民党が2012年に決定した憲法改正草案では、24条に「家族は、互いに助け合わなければならない」という家族の在り方を押し付けかねない条項が追加されている。

 家庭教育支援法案は同じ思想から生まれ、憲法24条改正の布石と警戒する見方さえ出ている。

 法案の第1条や安倍首相らの発言からは、日本の伝統的な家族や子育てが衰退して家族の絆が弱まったことが、さまざまな問題をもたらしているという危機感が伝わってくる。しかし、その認識に対しては異なる見方もある。

 最近の研究によると、昔の庶民は子育てに手をかける余裕がなく、家庭で教育に力を入れるようになったのは高度成長期以降であり、現代はむしろ家族の絆が強い時代だとされている。

 「昔の家族は良かった」という根拠のない思い込みに基づいて作られた法案だとすれば、理解を得にくいだろう。

 家族や子育ての在り方は極めて多様であり、これが正しいと決められないことが多い。唯一の「正しい家庭教育」があるかのような思想に基づく法案は、そうした多様性を否定し、子育ての自由を縛る可能性を秘めている。

 家庭教育支援法案は、その重大性の割には内容が知られていない。自民党にはまず国民に内容を周知し、丁寧な説明をするよう求めたい。

2017年5月25日 無断転載禁止