三江線資産一括無償譲渡/県が一時、維持管理を

 島根大法文学部准教授 関 耕平

 三江線の廃線後、鉄路や駅舎など鉄道資産の管理をどうするのか、これは沿線地域の未来を決する重大事と言ってよい。禍根を残さず、沿線自治体と住民がじっくりと向き合い知恵を出す必要があり、まさに今が正念場である。

 JR西日本は、沿線自治体へ無償譲渡する意向を明らかにした。ただし、9月中に契約締結、一括譲渡の場合のみ無償で、駅舎だけといった一部譲渡の場合は有償という。

 これに対して沿線自治体の首長は、線路やトンネルの放置は獣のすみかになってしまうこと、落石防止の対策など、管理費用の捻出が困難なことから、「一括」譲渡に否定的である(本紙4月25、26日付)。

 できれば活用の道を探りたい、しかし莫大(ばくだい)な管理費を前に二の足を踏んでしまう、こうした沿線自治体の慎重な姿勢はもっともである。結論を先に言えば、この事態を打開するため、島根県とJR西による責任ある決断と行動が求められている。

 廃線後の鉄道資産を地域づくりの拠点として活用し、成功したのが可部線(広島県)である。2003年の一部廃線直後から、沿線自治体と住民とが協働し、新たなまちづくりの一環として鉄道資産の活用を位置づけ、ワークショップを重ねながら住民同士で地域の将来像を共有し、利活用計画を練り上げた。駅ごとの計画に基づき、安芸太田町は国の支援を受けながら、7~8年をかけ拠点整備事業を行った。

 その結果、多くの駅跡は今も待合室や駅名の看板がきれいに残され、公園をはじめとした地域づくりの拠点として生かされている。

 例えば安野駅跡は花の駅公園として車両が動態保存され、毎年春の「安野花まつり」に多くの観光客を迎え入れている。「ぷらっとホームつなみ」を整備した津浪駅跡は、地元の野菜などの販売施設として利用され、施設を核とした神楽体験や農家民泊の取り組みは、「農村の原風景が保存され誇りの持てる『安らぎの里つなみ』づくり」として、16年に農林水産省の「ディスカバー農山漁村の宝」に選定されている。

 こうした教訓を学びながら、三江線沿線でも動きださねばならない。既に一部の鉄路維持やサイクリング・ロードとしての利用など、さまざまなアイデアが提案され、実際に住民による模索も始まっている。しかし今の状況は、既に見たように水を差しかねない厳しい事態にある。

 まずは沿線自治体と住民が鉄道資産の利活用について、じっくりと議論を重ねていく十分な時間の確保が必要である。決算など財務・清算上の都合は理解すべきとはいえ、JR西が示す9月中の契約というスケジュールはあまりに短い。

 そこで県の出番である。島根県がJR西から一括していったん無償で鉄道資産の譲渡を受け、当面の間の維持管理に責任を持つべきである。特に三江線が複数の自治体にまたがっていること、沿線自治体の小さな財政規模ゆえ、鉄道資産の譲渡受け入れが困難である点を踏まえれば、広域的な役割を担い、市町村を補完する県行政のまさに面目躍如である。

 県資産としていったん維持管理することで、沿線自治体と住民がせかされることなく、じっくりと時間をかけて利活用策を議論できる条件が整う。住民自身が構想し、地域の将来像に位置づけられた鉄道資産の利活用が実現した段階で、順次、これを地域に移譲していけばよい。

 三江線代替バスの運営を予定している地域共生企業・JR西にも、さらに踏み込んだ地域振興支援を検討してもらいたい。可部線廃線(46キロ)で同社は8億円を拠出し、地域振興の基金を造成した。安芸太田町はこれを活用し、今も鉄道資産の管理などに充てている。

 三江線廃線の経緯を巡って、島根県の対応や責任を厳しく問う声は多かった。住民自身が駅舎をはじめとした鉄道資産の活用方法に英知を結集し、沿線地域の未来を切り開いていくためには、このたびの「一括無償譲渡」を巡る混沌(こんとん)を何としても打開しなければならない。今まさに島根県の出番であり、名誉挽回のときである。

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 せき こうへい 1978年、秋田県生まれ。岩手大卒、一橋大大学院経済学研究科単位取得退学。日本地方財政学会理事。島根大法文学部講師をへて、2008年4月より現職。財政学・地方財政論担当。今年4月に「三江線の過去・現在・未来」(今井出版)を刊行。

2017年5月28日 無断転載禁止