茶人林屋晴三さん

 陶磁史家で茶人の林屋晴三さんが亡くなってふた月。「別冊太陽」に武者小路千家の若宗匠千宗屋さんとの対談が載っていた。亡くなるひと月前、入院中の林屋さんを千さんが訪ねて実現した▼東京国立博物館の勤務で名品に接した、茶碗(ちゃわん)研究の第一人者。田部美術館大賞「茶の湯の造形展」の創設にも携わり、「作家を育てたい」思いから、同賞の毎年開催を強く推した▼授賞式で若手作家を「ここはあなたの持ち味だが、ここがいけない」とばっさりやるので見ている方はハラハラしたが、言われた方は真剣そのもの。そうして巣立った山陰両県の多くの作家が今、第一線で活躍している▼400年前、茶の湯は新しい美意識を生み出した。しかし現代の陶工は新時代の「造形」美と「伝統」との融合に悩む。同大賞の大きなテーマでもある。そこで「私がやらないといけないかな」と、造形展の歴代受賞作を使い、悠然と点前を披露してみせた。茶人としての面目躍如だ▼対談は薫陶を受けた人への遺言に思えた。「上手なお茶(茶事)なんかいくらでもする人はいる。でも想(おも)いを込めて一碗のお茶を点(た)てられる人はそうはいない」と、いつもの林屋節。そういえば口癖は、「想いがなければ良い茶碗は生まれない」だった▼千さんが「今一番お茶が飲みたい茶碗」を問うと、卯花墻(うのはながき)と答えた。国宝だが優しい色合いの、思わず触ってみたくなるような志野茶碗。一碗への想いを、多くの人に易しい言葉で語った、その人らしい道具選びだった。(裕)

2017年5月30日 無断転載禁止