アキのKEIルポ2017 原点「ドロップショット」

 柔らかなボールが相手のコートに沈むのを見届けると、錦織はまるで子どものように、喜びと驚きが入り交じった表情で跳びはねた。豪快なジャンピングショットからつなげた、フォアハンドのドロップショット--。それは錦織圭という選手の魅力を、次々に陳列するような展開だった。

 「子どもの頃から、圭はドロップショットをよく打ってました」

 錦織の姉の玲奈さんが、そう教えてくれたことがある。「私相手に決まるとうれしそうな顔をするんです。『これで玲奈ちゃんは崩せるな』って感じで」

 パワーで自分を上回る姉に対抗するため、自ら探り当てた奥義。錦織にとってドロップショットは、家族と郷里に根ざした彼のテニスの原点だ。

 全仏2回戦のシャルディー戦。第1セット終盤に決まったドロップショットが、地元人気選手の心を崩す。以降のシャルディーは10ゲームを連続して落とすことに。かつて姉を翻弄(ほんろう)した技が、貴重な勝利への呼び水となった。

 全仏は錦織にとって、12歳の頃にひそかにセンターコートに忍び込み、トロフィーを掲げる姿を思い描いた地だという。松江で家族と遊ぶように球を追った無垢(むく)な喜びと、少年時代に抱いた夢を抱え、赤土に轍(わだち)を残す旅は続く。(フリーライター・内田暁)

2017年6月3日 無断転載禁止