臆病な企業

 「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」-こんな表題の本が出版された。多くの日本人が疑問に感じながら明確な答えが出てこない。そんなもやもや感に松江市出身の経済学者、玄田有史東大教授が切り込んだ。自ら編者となり日本経済が抱える賃金デフレと呼べるような慢性病の診断に挑んだ▼バブル期以来の人手不足と言われながら、賃金は伸び悩んでいる。その理由として非正規雇用の増加や労働生産性の低下などが挙げられているが、もっと踏み込んで謎を解いてみたいと玄田教授▼専門的な本の内容は統計資料のオンパレードで、素人にとって重箱の隅をつつくような分析に付いていくのはしんどい。その中で執筆メンバーの山本勲慶応大教授らの視点は、あまり表に出てこない企業心理をうがつようで目を引いた▼過去の不況期に賃金を下げなかった企業ほど景気が良くなっても賃金を上げない傾向があるという。不景気になっても経営側が歯を食いしばって賃金を下げないよう努力したのだから、景気が良くなっても従業員は賃上げを我慢してほしい。そんな暗黙のお互いさま精神を求める企業側の姿勢が伝わってくる▼景気が良くなろうと悪くなろうと給料は大きく変えず安定水準を保とうとする。それが長期間、賃金が停滞する要因となっている▼その裏には一度上げた給料は下げることができない上、将来どんな不況が待ち構えているやら戦々恐々とする企業の弱腰も透ける。日本経済の慢性病は企業の臆病が原因らしい。(前)

2017年6月16日 無断転載禁止