映画プロデューサーのささやかな日常(49)

『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』
「生きる困難」を描く映画

 東京の雑踏共に歩く2人


 近年、10代や20代女性向けの映画を制作することが多くなりました。それは映画のお客さまの大多数が女性だからです。

 彼女たちは明快なハッピーエンドや涙する感動を映画に求める傾向が強く、以前のような、小難しい、いわゆるアート映画や、バッドエンドな映画、せりふや音楽が少ない「行間を読む」ような映画は、どうにも大衆には一層好まれなくなっています。お金を払ってまで考え込んだり、痛みを感じることは避けたい、といった理由もあるのでしょう。

 昨年僕がプロデュースした『植物図鑑』や今年公開した『一週間フレンズ。』は10代ティーンから20代までの女性中心のターゲットを想定し、彼女たちに思いっきり日常を忘れて喜んでもらえるよう、俳優だけでなく、劇中の音楽、小道具、衣装、ポスタービジュアルなど、スタッフと話し合って、美しく、かわいらしく作り上げ、想定以上の数の観客に届けることができました。

 大ヒットというのは本当にうれしいのですが、一方僕自身としては、孤独や生きることの難しさ、人間同士の齟齬(そご)、対立を描いた作品も好きで-ですが残念ながら、前述の通り、商売としてはそんな企画は通ることが難しいのが現状で、時折頭を悩ませています。

 そんな中、心にトゲのように刺さる映画に出合いました。それが、今回ご紹介する『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』です。本作は『舟を編む』で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した石井裕也監督が、新鋭の詩人・最果タヒさんの同名詩集をもとに描いたヒューマンストーリー。

 実家を離れた東京で看護師をしながら夜はガールズバーで働く美香(石橋静河)は、無職の父親への憤りを抱え、周囲とのコミュニケーションも不得意で日々を暮している。一方、工事現場で過酷な日雇い仕事に従事する慎二(池松壮亮)は、いつも仲間たちとたわいもない会話をしながらも、常に死の気配を感じながら生きている。そんな、生活にそれぞれの居心地の悪さを感じていた2人が偶然に出会い、心を通わせていきます。

 この映画では主役2人以外にも、フィリピンから出稼ぎにきた青年や、腰痛を抱えて恋もままならない40過ぎのフリーター、慎二に言い寄るニューヨークで成功したとうそをついている女子大生など、孤独を抱えた人々が登場し、それぞれの人生が交錯しながら、ラストに向けて見事なアンサンブルを奏でていきます。特にこれといった大きなアクションや事件は起きません。ただ2人は、一緒に渋谷や新宿の雑踏を共に歩くことで、何か見えない幸せを感じていきます。

 僕は東京に出てきてから早30年が立ちました。この映画を見て思い出したのは、都会で生きるのはやっぱり、みんなしんどいと感じていること。けれど、生きて暮らしていれば、誰か好きになれる人と出会える。同じ趣味を持つ仲間だったり、先輩や後輩の仕事仲間や、相手先の会社の人だったり。それこそが、都会で生きる幸せの一つだと感じさせてくれる映画でした。

 映画館で一人孤独にスクリーンを見ることは、「人生とは何か」を考えさせてくれる時間を与えてくれます。撮影も編集も素晴らしく、ヒロインの石橋さんの演技も素直で好感が持てました。今年の日本映画の中でも出色の出来です。ぜひ機会があれば映画館でご覧になってみてください。

2017年6月16日 無断転載禁止