核兵器禁止条約/再考し交渉参加の道を

 核兵器の開発や製造、保有、使用を禁じる「核兵器禁止条約」の実現に向けた交渉が、ニューヨークの国連本部で再開した。オーストリアなど推進派の非核保有国は7月7日の会期最終日までの採択を目指しており、史上初めて核兵器を非合法化する国際法が誕生する見通しだ。

 議長国コスタリカが示した条約草案は前文で広島、長崎の被爆者や核実験被害者の「苦しみ」に触れ、核の犠牲者に深い共感を示している。また、核使用や核実験の影響を受けた人に対する援助の必要性にも言及した。

 その根底には「核兵器の非人道性」に立脚して、「核と人類は共存できない」と被爆者らが長年訴えてきた「核絶対否定」の哲学と思想がのぞく。原爆きのこ雲の下で生き地獄を体験し、放射線がもたらす被害に今なお苦しむみ被爆者とその家族の思いを酌み取った草案を評価したい。

 また、条約草案には「核使用の威嚇」を明示的に禁じる言葉こそないが、核保有国が差し掛ける「核の傘」の下にある国も念頭に、禁止行為を支援したり奨励したりすることを禁じている。

 そうした意味で、核保有国とその同盟国が正当化してきた「核抑止論」にも果敢に挑戦する内容だ。交渉関係者の間には「威嚇の禁止を明記すべきだ」との声もあり、今後そうした文言が盛り込まれる可能性もある。

 極めて残念なのは、米ロ中などの核保有国がそろって条約交渉にはなから背を向け、その影響で「核の傘」の下にある同盟国も、オランダを除き、そうした後ろ向きの姿勢に追随していることだ。

 日本政府は、核保有国が参加しないまま条約交渉を進めれば国際社会の分断が深まるとして「建設的かつ誠実に参加するのは困難」(高見沢将林軍縮大使)との見解を3月の交渉開幕時に表明。以降、交渉参加を拒否している。

 北朝鮮が核・ミサイル実験を繰り返す中、国防のために抑止力が不可欠だとする日本政府の考え方も十分理解できる。しかし、一方で「非核」の国是もある。今回の対応のままでいいだろうか。

 抑止力は非常に重要だが、米国の核戦力ばかりに依存する必要はなく、政府が予算を増やしているミサイル防衛や自衛隊の防衛力、圧倒的な米軍の通常戦力で抑止力は維持できるとする見方もある。

 核攻撃による被爆体験を唯一有する日本が条約交渉に加わらず、核兵器禁止の法的理念を否定するような行為を続ければ、北朝鮮が核兵器を「是」として核依存をますます深め、その使用すら正当化する口実を与えることにもなりかねない。

 今からでも遅くはない。日本が交渉のテーブルに着き、被爆体験に根差しながら、核保有国がいずれ条約に参加できる恒久的な制度づくりに一役買うべきではないか。

 条約反対派は、核兵器禁止条約が核不拡散体制の礎石であり続けた核拡散防止条約(NPT)体制を弱体化させるとの議論を展開しているが、二つの条約が共存可能な状況を担保する外交努力を誠実に重ねるべきだ。

 既存の核不拡散体制を強化しながら、核廃絶への法的な道筋を描くことは決して不可能ではない。日本政府に再考を促したい。

2017年6月18日 無断転載禁止