世事抄録 私のこと分かっていない

「私のこと分かってない」「君だって僕のこと分かってない。自己中心だ」「あなたも同じよ」。高校時代、松江城山での別れはこんな口論だった。

 何をしたいという心の中のことは本人が一番知っている。その代わり本人の言動や生きざまという外から見える現象は、他者の方が第三者と比較することでよく分かる。社会生活では、この二つの視点の折り合いをどうつけるかだ。と、人生を悟ったかのように語るが、今でも色恋ではないところで繰り返している。それは私だけではない。

 良い商品は売れるという時代があった。企業は技術革新に努め、商品の優位性を宣伝した。昨今、品質は当たり前で、お客さまのニーズに応えた商品が求められる。そこで生活者の心を分析するマーケティングに力が入れられるようになった。

 観光宣伝でも同じだ。「島根にはこんな名所旧跡があり自然に恵まれています」。確かに私も自慢する。しかし、首都圏の観光客からみれば松江城も姫路城も同じ城で、自然はどこも美しい。情報過多の今日、観光客が「なぜ」島根に行きたくなるのかの「なぜ」を観光客に代わって示すことが重要だ。

 それには観光客の求める本質を知り、共感をつくりだすことだ。マーケティングはそのためにある。顧みればあの時、君の心を分かろうと努力したならば、あんなに傷つけた別れにはならなかっただろう。

 (埼玉県在住、島根県奥出雲町出身・鬼灯)

2017年7月6日 無断転載禁止