夏の思い出

 若いころ鳥取県中部の海水浴場で泳いでいたところ、潮に流されたことがある。突堤付近から岸に引き返そうとしたが、いくら泳いでも進まない。進むどころか、だんだん岸が遠くなるような気がした。そのうち息が上がり、溺れるかもしれないとパニックに陥った▼岸付近では海水浴客の姿が見られたが、周囲を見渡すと誰もいない。必死でもがいているうち少しずつ進むようになった。できるだけ最短距離でと岸に向かってまっすぐ泳いでいたのを、なんかの拍子で少し向きを変えたところ、命からがら岸にたどり着くことができた▼後になって分かったが、離岸流と呼ばれる強い引き潮に巻き込まれたようだ。その流れの速さは秒速2メートル。競泳男子100メートル自由形世界記録並みのスピードという。幅10~30メートルの帯状の流れが岸から沖に向かうため、巻き込まれたら岸にまっすぐ進もうとせず海岸線に平行に泳げば、流れから脱出できる▼海水浴たけなわの季節。島根県内では今月に入って7件の水難事故が発生し、4人が死亡したが、このうち3人は海水浴中に溺れて亡くなり、7月中としてはこの10年で最悪となった。今夏は早く暑くなったためではと県警本部▼離岸流は突堤など人工構造物の付近や海岸線がくぼんだところで発生しやすい。波は穏やかでも、水面がざわついたりごみが集まっているところは要注意だ▼行きはすいすいだが、帰りは押し返されそうな離岸パワー。体調と気象と海の機嫌を伺いながら、夏と戯(たわむ)れたい。(前)

2017年7月29日 無断転載禁止