池波正太郎を瑞風に

 戦後を代表する時代小説家で劇作家、美食家、映画評論家として知られる池波正太郎氏は、タクシーに乗ると必ずメーター料金にいくらかのチップを足して渡した▼やがて、気持ちよい運転をするタクシーを外さなくなる。呼び止める時に観察すると「運転の仕方で分かった」そうだ。良いサービスにはしかるべき対価。さすが目利きの人である▼人口減少で消費が落ち込み、長時間労働の解消が叫ばれ、日本経済は成長しようにも、頭は押さえられ手足も縛られている状態。日本の「労働生産性」は先進国中最低だから、生産性を上げれば苦境が乗り切れる、との楽観論もあるのだが▼日本は運輸、卸売り、小売り、飲食宿泊など主にサービス分野の生産性が低い。生産性の高い製造業の雇用は縮小し、サービス業は人手不足だから、労働市場はこれからも生産性が低いところに流れていくばかり▼その上ここ二十数年のデフレを生き抜くため企業は低価格競争を繰り広げ、世間には「サービスは無料」との誤解も定着。そこに登場したのがJR西の豪華列車「瑞(みず)風(かぜ)」。料金は1人25万~125万円。沿線食材による一流料理も売り物だ▼消費より貯金に回す縮み志向や、安けりゃ良いの消費意識を吹き飛ばしてほしい。最高のサービスにはしかるべき対価。結局それで地方にお金が回るし、気持ちよく支払えば客の満足度は増すし、物価上昇2%ぐらいすぐに実現。それぐらいは頼まなくても言ってくれそうな池波氏を、一度瑞風に乗せてみたかった。(裕)

2017年7月31日 無断転載禁止