無料化ブーム

 度を過ぎた政策は破綻する。田中角栄内閣が1973年に導入した老人医療費無料制度。60年代に「福祉の無料化ブーム」が一部の自治体で広がったのを受けた流れだった▼ところが受診率が上がり、医療機関の待合室がサロン化。医療費急増と保険財政圧迫を招き、わずか10年で終わった。近年では民主党政権の高速道路無料化だろう。「無料」は聞こえはいいが、どこかに矛盾をはらむ▼今のブームは高等教育の無償化だ。政府、自民党は、幼児教育から高等教育までの無償化を検討しており、憲法にまで明記すべきかどうかを議論している。4兆円を超すとされる財源の確保策をはじめ、まだ妙案は見つかっていない▼慶応大の中室牧子准教授(教育経済学)は「無償化は格差を広げる愚策だ」と就学前教育の質を高めるよう提言する。経済的に余裕のある世帯は、無償化で浮いたお金を塾や習い事に充てられるが、苦しい世帯は生活費に回さざるを得ない。それより「就学前や初等教育など早い時期での投資効果が大きい」と持論を展開する▼そもそも大学に無償化を導入する効果はあるのか。学生の学力低下は甚だしく、中学教科書の学び直しに時間を割かざるを得ない大学は少なくない。さらに無償化で門戸を広げればどうなるのか。抜本的な改革が待たれる▼教育機会の平等は社会の責務だが、財源を考えると、数千億で済む幼少時教育と高校への拡大が現実的な選択ではないか。他の施策とのバランスを図りながら一つずつ実行したい。(玉)

2017年8月7日 無断転載禁止