戦争に変えられた日常を思う

 テレビ中継で見た広島と長崎の二つの平和祈念式典が、いつもの年より胸に迫った。毎年黙とうしながらどこか別世界の感もあったが、今年は「誰か」の人生を思いながら祈った▼こうの史代さんが被爆女性と家族を描いた漫画「夕凪(なぎ)の街桜の国」を読んだばかりだったからだろう。1955年の広島が舞台。被爆しながら明るく暮らす23歳の皆実は、生き残ったことに自責の念を抱えていた。「いまだにわけが分からないが、死ねばいいと誰かに思われた。あれ以来、そう思われても仕方ない人間になった」▼戦時中の呉市で前向きに生きる人々を描いた映画「この世界の片隅に」をはじめ、こうのさんの作品には原爆や空襲による惨状の描写は少ない▼主人公が歩いた町並みや食べた朝ご飯など、日々の暮らしや風景が淡々と描かれることで、いや応なく巻き込まれ、静かに日常を変えていく戦争の破壊力が伝わってくる▼出雲市役所で開催中の「戦争・原爆被災展」は、長崎市が94年から全国の自治体と共催する巡回展で、工場で働く男性の焼けた背広や被爆した幼い弟を背負う少年の写真など貴重な資料が集められている。一瞬にして幸せを奪われた彼らの人生を想像すると、日々の暮らしの有り難さが身に染みる▼皆実は恋が成就しようとした矢先、原爆症で亡くなる。式典で松井一実広島市長が「地獄」と表現した原爆の本当の悲惨さは経験しないと分からないだろう。でも、分かろうとすることが、慰霊につながる。展示は18日まで。(衣)

2017年8月10日 無断転載禁止