「頭上の脅威」の行方

 「売り言葉に買い言葉」というが、北朝鮮と米国の応酬が一時エスカレート。北が「グアム島周辺への包囲射撃を断行する」と脅すと、米側も「炎と怒りに見舞われる」と恫喝(どうかつ)した▼「言葉の戦争」といわれる状況は、その後ややトーンダウンし、米韓合同軍事演習を巡る水面下の駆け引きも伝えられる。ただ弾道ミサイルの上空通過を名指しされた県は、今のままでは不安は消えない▼注意したいのは、古代ローマの歴史を綴(つづ)ったポリュビオスの指摘だ。「宙ぶらりんの状態が延々と続くと、人間の魂を一番参らせる」という。そして「どちらかに決したときに、大変な気持ちのよさがそこに伴う」のだそうだ▼日本の近代史を振り返ってみても、似た心情がうかがえる。三国干渉に伴う「臥薪(がしん)嘗胆(しょうたん)」後の日露戦争、リットン調査団の報告を拒否しての国際連盟脱退、さらに真珠湾攻撃の発表時にも、国民の間に一種の爽快感が走ったという▼遺伝子レベルで考えると、その当時からまだ3~5世代。人間の心情を左右するDNAが大きく変化しているとは思えない。不安が長引き、いら立ちが募れば、力による解決の誘惑が増す恐れがある▼人間の体の中で、目、鼻、耳は心では制御できないが、口と手、足は制御可能だという。ポリュビオスは、爽快さを求める気持ちが指導者に伝染すれば、国は滅亡の危機に瀕(ひん)すると警告した。口だけにとどめて、手足を制御できるかどうか。「頭上の脅威」の行方は、指導者たちの忍耐力にかかっている。(己)

2017年8月24日 無断転載禁止