肴か「おかず」か

 日常会話でよく口にする「酒の肴(さかな)」という言い方を文章で使うと注意された。「後で後悔する」や「余分なぜい肉」などと同じく重複表現になるからだ。ただし話し言葉では、その方が通じやすい▼肴はもともと「酒菜」と書き、酒のための「な(おかず)」という意味で、「菜」の代わりに「魚」の字を当てることもあったらしい。茶道史に詳しい熊倉功夫さんの本を読むまで未知の領域だったのは、その先▼同じ刺し身でも、懐石料理の「向付(むこうづけ)」としてご飯、汁と一緒に、最初に出る品と、刺し身定食などの場合では意味合いが違うらしい。酒に合わせると「肴」になり、ご飯に合わせると「お菜(さい)」つまり「おかず」なのだそうだ▼だから懐石料理では、酒が出てから向付をいただくとのこと。もう一つ勘違いしていたのは、味噌(みそ)汁などの「汁」と「吸い物」の違い。吸い物は、いわゆる「すまし汁」のことだと思い込んでいたが、本来は酒に合わせるのが吸い物、ご飯に合わせると汁だという▼「一汁三菜」が基本とされる和食の伝統はさすがに奥が深い。無形文化遺産になったことで商売繁盛の好機とブームは過熱気味だが、身近すぎてか、意外と知らないことが多い▼和食文化の伝統の中には、身分相応の品数や食材、普段と「ハレの日」の区別などの約束事があった。酢や味噌などの発酵食品を使った、冷蔵庫がない時代の「食の知恵」も詰まっている。「食」も言葉遣いも、本来の扱いや意味へのこだわり具合で文化は変わっていく。(己)

2017年8月27日 無断転載禁止