世事抄録 霊

 存在しないものが見えたと言うと、夢とか、見間違いだろうと笑われるのが落ちだ。ところが見えるのだからどうしようもない。正体も突き止めたくなる。そんな季節外れの怪談話をしよう。

 帰郷して一人で盆を迎えると、決まって夜半、霊の気配で目が覚める。親の霊ならうれしいが、怒っている見知らぬ男の霊だ。お寺で話すと、「ご先祖様とお話しされたらどうですか」と諭された。

 仏壇を前に酒で喉を清め語り掛けた。たわいもない近況や思い出話。やがて、なぜ故郷に戻らなかったか、十代目当主としてどうするかを思案しながら声にした。返事はもちろんない。不思議なものだ。繰り返すうちに忘れていたことがよみがえり、考えもしなかったことを思い付く。その夜、霊は現れなかった。先祖も安心されたのだろう。

 翌朝、仏様を送りながら考えた。人には意識と自覚しない無意識という領域がある。先祖との対話は私の心にも語り掛け、自然と無意識の領域で疑問や考えを掘り下げたのだろう。そこで閉じ込めていた思いや本質に探り当たり、隠していた悩みが明らかになったのだ。

 「霊」という現象は、無意識の中で家の存続について悩んでいた私の心の投影だったかもしれない。だから私だけにしか見えず、これからも居続けることだろう。

 (埼玉県在住、島根県奥出雲町出身・鬼灯)

2017年8月31日 無断転載禁止