記録が示したブランド力

 旬を迎えた出雲市斐川町出西地区の特産「出西しょうが」のおいしい食べ方を地元の人に聞いた。食べる30分前に小ぶりの塊根をしょうゆとみりんに漬け、生のままいただく。シャキシャキとした歯応えとピリっとした上品な辛味。出西は豊かな伏流水に恵まれ、斐伊川が運んだ砂が堆積するショウガ栽培の適地。同じ手法で他の土地で育てても、同じ物はできないという▼1907年5月、大正天皇が皇太子時代に山陰両県を訪れた際、この調理法で出西しょうがを召し上がったのではないか、と思わせる木箱が、出西村役場の書記だった故青木丹二郎さん宅の蔵で見つかった▼丹二郎さんは箱に、出雲市の旅館に泊まる皇太子の料理として政府が3月に出西村役場に出品を命じ、丹二郎さんら農家が種ショウガを温床で発芽させ、栄養管理に努めて約50日で成長させた経緯を記していた▼丹二郎さんは日露戦争時、島根県の戦時農業督励部に所属。研究熱心で、発芽の時期を早めることなど簡単だったかもしれないが、皇太子が口にするとあり、細心の注意で育てたことが記録からうかがえる▼政府が出品を命じたのは、病弱だったとされる皇太子に、生薬でもあるショウガを薬味ではない食べ方で堪能してもらう狙いがあったのではないか。皇太子は「至極珍重セラレ」たという▼400年前に栽培が始まったとされる歴史が古い出西しょうがだが、まつわる資料は少ない。丹二郎さんの記録がなければ明治時代の栄誉を知ることはなかった。(衣)

2017年9月2日 無断転載禁止