世事抄録 ひたすら歩く

 60歳で定年退職する前、還暦を機に「四国八十八カ所」巡りを夢に描いていたが、現実を前にすると、あえなく消え去ってしまった。せめて「定住放浪」でもしてみようという気になって現在に至る。

 雨や風などに関係なく、原則1日2時間歩くことがここ10年くらい定着している。歩くこと自体を楽しむという目標が長続きの秘訣(ひけつ)になっているように思う。

 今の時季、午後3時ごろ出掛け、近隣の山野や海辺をぶらぶらして帰れば、だいたい5時ごろで、2時間はしっかり歩いていることになる。故郷の自然にどっぷりとつかりながら、草木や小動物を観察したり、農家の人と立ち話したりとけっこう充実した時間帯で、新たな発見に出くわすこともある。

 歩き始めて30分くらいすると、幸せホルモンであるセロトニンの分泌が始まる。さっきまでかたくなに存在した自我が周囲の風景にとけこみ、実に心地よい精神状態へ変化してゆく。このことは心身の健康にたいへん良いといわれている。

 歩く習慣のない人には、一見、歩くことは無駄な時間のように思えるかもしれない。私にとって生活にめりはりがつき、一日がいっそう充実してくるのである。生きている限り、春夏秋冬を通じ続けたく考えている。

 (鳥取県大山町・伯耆のウリボウ)

2017年9月14日 無断転載禁止