下魚なれど

 「飯熱く 下魚(げざかな)ながらも秋刀魚(さんま)かな」(籾山柑子)。さんまを焼くためだけに置いてある七輪(しちりん)が、今年も出番を迎えた。さんまの水揚げも持ち直したとか。値段も安くなってきた▼七輪で煙を上げながらさんまを焼くのは、田舎暮らしの醍醐味(だいごみ)。「食べ物の焦げはがんの原因」と言われてきたが、どうやらそれはないと最近聞いたので、これからは遠慮なし。焦げのところがうまいのだ▼下魚(低級な魚)といわれても食卓の主役を張れるのは、一にも二にも味が良いから。江戸の昔、鯛(たい)とは違って殿様の膳には載らない魚だが、そこをどんでん返ししたのが落語の「目黒のさんま」だ▼鷹(たか)狩りの途中、目黒あたりを通りかかった殿様。さんまを焼く匂いにつられ初めて口にする。以後、その味が忘れられない。御殿で家来に焼かせると、脂を抜いたり骨を抜いたり、まったく別の代物に。殿様は思わず「さんまは目黒に限る」▼実在の大名とは無関係のフィクションで、噺家(はなしか)によってバリエーションがあるが、出雲国松江松平家の当主を主人公としているものが多く、目黒のさんまは松江藩ゆかり、と自慢できる。風土記の時代から、山海の産物に恵まれた出雲地方。殿様も本物を知る食通だったと尾ひれも付けたい▼設定は江戸寛永年間というので、初代松江藩主、松平直政の頃。その「殿様」の銅像は、太平洋戦争時に金属類供出されたが、松江藩開府400年を機に再建された。日本独特の食文化にまつわる、モニュメントにも見えてくる。(裕)

2017年9月17日 無断転載禁止