夢の美術館

 美術館に足を運ぶ意義は実物を鑑賞できるところにある。松江市の島根県立美術館で開催中の企画展「夢の美術館」で超現実主義の画家ダリの「ポルト・リガトの聖母」を見て改めて思った▼大きさに圧倒される。縦3メートル近く、横2メートルを超える。色彩の鮮やかさ、筆遣いの細やかさ、立体感がよく分かる。細部まで見入っていると、時間を忘れる▼原爆投下に衝撃を受け、原子物理学に関心を深める中で描かれたという作品。受け止め方は人それぞれだろう。バラバラになって浮かんでいる祭壇は核分裂を思わせる▼私たちの体を含めすべての物体を構成する原子は、中心の原子核が直径1メートルの球だとすれば、周りの電子は100キロも遠くにあることになるという。原子レベルでは人体はスカスカだと思うと、どこか落ち着かない。「私」という存在まで問うてしまう。そんな穏やかならぬ気分となったのは、絵の中の聖母と子どものおなかが空洞だからだ▼北九州市で育った芥川賞作家の平野啓一郎さんは、福岡市美術館が所有するこの絵に思い入れが強い。ダリの「最高傑作の一つ」とし、いつでも福岡で見られることは「ある意味、この作品以上にふしぎな、”超現実的”なこと」と図録に記している▼福岡と北九州の二つの美術館の改修時期が偶然重なって実現した巡回展。モネやルノワールなど昨年のポーラ美術館展で人気を集めた印象派の作品も並ぶ。休館中の2館が、自慢の収蔵品を惜しみなく出品している。おいしい展覧会である。(輔)

2017年10月2日 無断転載禁止