たたらがもたらした食文化

 奥出雲町を訪れるのが楽しみな季節になった。お目当ては特産品・仁多米(コシヒカリ)の新米。もちもちして、うま味が広がる▼さらに11月上旬になると、新そばも加わる。国内で数少ない在来種のそばの中でも、横田小そばと阿井小そばは同町だけに育つ。両品種とも、一般的なそばの品種より収量が少ないものの、たぐると、歯応えがあり、香りと甘味が強いのに驚かされる▼とりわけ、横田小そばは他品種と交配が進み、一時的に姿を消したが、保管されていた種子の活用や、わずかに栽培していた農家の手助けで復活。大切に育てられている▼実は奥出雲を代表する秋の味覚の仁多米とそばはともに、たたら製鉄と縁が深い。水流の力で山を削って、原料の砂鉄を採取した跡地が棚田に再生され、米が栽培されている。そばはたたらで使う炭を焼くために木を切った後、焼き畑をしてそばの種をまいた▼江戸時代、松江藩の鉄山師を担った同町の櫻井家には、たたらとそばの結びつきを連想させる器が残されている。輪島塗の椀(わん)は殿様専用で赤漆の四角い器は上客用、25人前の一組は家での普段使い。皆でそばをたぐる姿が浮かぶ▼島根の民芸運動をリードした太田直行は、出雲各地の特産品を味わい出雲新風土記の味覚の部で、そばは「仁多の八川産が第一」と評価した。単に鉄を造るだけにとどまらず、米やそば作りにもつながったたたら製鉄。来訪者に秋の味覚を楽しんでもらう際に食文化の歴史を示し、魅力をさらに高めたい。(道)

2017年10月4日 無断転載禁止