由来の強み

 荒神谷遺跡がある「神庭」をはじめ、「神氷」や「阿宮」など出雲市斐川町には神話や神を連想する地名が多い。その由来は、地元の郷土史家、故池田敏雄さんの「斐川の地名散歩」に詳しい▼同著によると斐川町直江の「結(むすび)」地区は、万物を産む不思議な神の力があることを意味する「産霊(むすひ)」が由来。島根富士通の敷地の一部がかかる結地区は、出雲国風土記で神宿る山といわれる神名火山(仏経山)の麓に広がる。この季節、収穫を終えたばかりの水田が連なる▼南の山が保つ水源と平たん地に恵まれて稲作に適し、豊かな自然と産物に恵まれて住みよい暮らしができるよう神が見守る地というのはうなずける。オオクニヌシと結ばれたヤカミヒメが産湯を用いた三つの井戸をまつる安産守護の御井神社や古墳もある▼結地区のコメは甘くおいしく、粘土質の土壌と昼夜の寒暖差が生む食味値90以上のコメは地元農家の誇り。そんな結に引かれたのが群言堂ブランドで全国に衣類、雑貨販売店を持つ石見銀山生活文化研究所(大田市大森町)で、運営する宿泊施設や都内のカフェでは人の手で握る「おむすび」を大事なメニューに据えており、米は結米を使う▼1989年、同町に進出した島根富士通も、10年越しの誘致活動が実を結ぶ一因になったのは結の地名だったという。「発展的な地名」と当時の本社役員に決断を促した▼地名の由来は土地の力だと思う。努力して得ることはできないが、時に科学的根拠より強みになり、人の心を動かす。(衣)

2017年10月6日 無断転載禁止