とわれるもの(2)原発とエネルギー政策

進む「稼働」消えぬ不安

 衆院が解散した翌日の9月29日、東京都港区の原子力規制委員会。中国電力が再稼働を目指す島根原発2号機(松江市鹿島町片句、出力82万キロワット)の新規制基準適合性審査で、耐震設計上考慮すべき震源断層「宍道断層」の長さの評価が約39キロで固まった。

 耐震設計の目安で、審査上の最難関とされる「基準地震動」の確定に大きく近づいたと同時に、ほぼ完成している3号機(出力137万3千キロワット)の審査申請が視野に入ったことを意味する。

 中電の清水希茂社長はかねて、3号機の耐震設計に影響する基準地震動の見通しが付くなどの条件が整えば、申請する意向を示しており、10月4日に都内であった規制委臨時会議に出席した後「基準地震動が見えた段階で、できるだけ速やかに出したい」とあらためて意欲をみせた。

 政府は、石油やガスなどの資源に乏しい事情を踏まえて策定したエネルギー基本計画で、原発を「ベースロード電源」と設定。2030年の電源構成に占める比率を20~22%とする目標を据え、規制委の審査で合格した原発は稼働させる方針を打ち出している。

 東京電力福島第1原発事故後に停止した原発を30基程度動かす計算となる。一方、現状で再稼働したのは九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)や四国電力伊方3号機(愛媛県)など5基。

 30基の中には、原子炉等規制法で原則40年と定められた運転期間に近づく老朽原発も含まれる。最長20年の延長が認められているが老朽原発に対する不安の声は残っている。

 新増設やリプレース(建て替え)の必要性の議論は深まっていない。このためほぼ完成していることを踏まえ、政府が「新増設にはあたらない」(安倍晋三首相)との方針を示した島根原発3号機の稼働は、目標達成に向けた焦点となる。

 2014年に策定したエネルギー基本計画は、3年ごとの改定期に差し掛かった。8月に始まった有識者会議で世耕弘成経済産業相は「基本的には現計画の骨格は変えない」と目標を維持する方針を強調。中電幹部は、島根3号機が必要となる公算が大きいとみて「運転開始に国の後押しがつく」と期待を膨らませる。

 一方、福島第1原発事故などを踏まえ、甚大な被害をもたらす恐れがある原発に対する住民の不安は解消されておらず、「不要論」さえ上がっている。


再稼働に向け、原子力規制委員会による審査を受けている中国電力島根原発2号機(写真左下)と、中電が審査申請の準備を進めている3号機(同上)。右下は廃炉作業に入った1号機=松江市鹿島町片句(資料)
避難計画 住民懸念拭えず

 中国電力が原発を必要と主張するのは、発電電力量の構成比で、火力の依存度が高まり、安定供給に不安を抱えていることが背景にある。

 島根原発(松江市鹿島町片句)1、2号機が稼働していた2009年度は78%だったのに対し、16年度は86%に上昇。こうした中、火力発電所は、老朽化に伴う故障など、計画外停止のリスクがあるという。

 原発稼働は収益改善効果も見込まれており、関西電力など、原子力規制委員会の審査に合格した原発を再稼働させた大手電力は電気料金の値下げに踏み切り、家計や企業の負担軽減につなげている。


再稼働に説明責任

 これに対し、原発を不要とする声も根強い。

 「原発がなくても生活に支障はない。事故のリスクがある2号機の再稼働、3号機の稼働の必要性はない」

 島根原発の稼働に反対する市民団体「平和フォーラムしまね」の杉谷肇代表(75)は、同原発の全停止から5年が過ぎた中、電力供給に問題はないと主張する。

 中電管内の電力需要を示す販売電力量は、16年度が前年度比0・9%増となった一方、15年度は同2・0%減、14年度は同1・9%減。

 杉谷代表は、人口減少や省エネ意識の高まりで「電力需要は頭打ちだ。今後伸びるとは思えない」と批判を強め、再生可能エネルギーの普及を推進すべきと訴える。

中国電力島根原発事故時に稼働させる放射線防護設備を点検する特別養護老人ホーム明翔苑の武部幸一郎施設長。事故時に介助者や車両が確保できるか、頭を悩ませている=松江市西浜佐陀町
 反対論がある中、原子力発電を国策として進める政府は、必要性とリスクへの対処を主体的に説明する責務がある。それにもかかわらず、福島第1原発事故以降も、住民と向き合うのを地方自治体に任せてきた感は否めない。

 その最たるものが、原発立地道県に策定を任せる広域避難計画だ。

 島根原発から約8キロ南に位置する特別養護老人ホーム「明翔苑」(松江市西浜佐陀町)の武部幸一郎施設長(41)は「(自衛隊など国の)応援がないと広域避難はできない」と頭を抱える。

 国の「原子力災害対策指針」などによると、原発から5~30キロ圏の特養ホームの入所者は、事故に伴い毎時20マイクロシーベルトの放射線量を計測した場合は1週間以内、500マイクロシーベルトに達した際には直ちに30キロ圏外の広域福祉避難所に向かう。

 避難計画では、約70キロ離れた大田市に移る予定。それまでは、整備した放射線防護設備を稼働し、室内の気圧を高めて放射性物質の侵入を防ぐ。

 ただ、デイサービスを含めた最大83人の利用者を施設のスタッフが搬送できるかは、時間帯などの条件次第。スタッフも家族を抱えており、投げ打って駆け付けてくれるか、確信が持てない。

 加えて、車イスなどに対応した車両は6台。介助者と車両の応援が不可欠だが、国などの支援が得られるかは不透明だ。

 自家用車の避難者による道路の大渋滞や、体が不自由な利用者を遠方まで無事送れるかなど、不確定要素は多く、武部施設長は「考えれば考えるほど、ハードルが横たわる」と悩む。


命守る「車の両輪」

 避難計画は、実効性の有無が原発を動かす上での法的要件にはなっていないものの、規制委の審査と合わせ、住民の命を守る「車の両輪」とされる。

 再稼働した九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)や四国電力伊方原発3号機(愛媛県)の計画は要援護者の避難や車の渋滞対策、半島部の住民の避難誘導などで不備が指摘される中、安倍晋三首相を議長とする政府の原子力防災会議は「合理的」と了承した経緯があるが、懸念が払拭(ふっしょく)されないままでは住民の真の安心・安全は確保できない。

2017年10月13日 無断転載禁止