とわれるもの(3)人口減少対策

募る危機感「国は支えて」

 「これが町が目指す1%戦略の概要。人口安定化のシナリオです」。西中国山地の盆地に開けた島根県邑南町。長く人口減少対策に取り組む町定住促進課の田村哲課長補佐(50)が冊子を手に切り出した。

 人口約1万1千人、高齢化率43%の同町は2015年に人口減少対策の総合戦略を策定。1%戦略で描く未来像は「2060年で1万人の維持」。毎年、20代前半の男女▽30代前半の夫婦と4歳以下1人▽60代前半の夫婦-の3世代7人を10組、つまり30世帯70人の移住定住で実現を目指す。

 1%戦略を提唱した、持続可能な地域社会総合研究所(益田市)の藤山浩所長は「(中山間地域は)50年にわたって人口が流出した。バランスよく逆流させれば人口安定化は可能だ」と話す。年齢構成をピラミッド型に近づけ、持続性を担保する狙いだ。

 人口減少はかつてないほど国の重要課題だ。安倍政権は人口減少の克服や東京一極集中の是正に向けた看板政策として「地方創生」を掲げ、15年度を地方創生元年と位置付け、5カ年の地方版戦略を作った自治体に財政支援している。

 邑南町では1%戦略を見据えた動きが出始めた。182世帯430人の日和地区。6日夜、近年増えるU・Iターン者を中心とした20~40代の約20人が、少子化などで閉校した日和小学校跡地で21日に開く「騒祭(そうづきんさい)」について打ち合わせた。

 集客目標は出身者を含め3千人。少しでも移住・定住につながってほしいとの思いもある。「限界集落になる危機感があった。楽しい地域には人が入ってきてくれるはず」。青年部長の中井大介さん(35)が力を込めた。

 町では日和地区を含めて12地区ごとの総合戦略に、国の地方創生関連交付金を財源に年間各300万円を配分。各地区独自の施策で移住・定住推進の裾野を広げようとしている。

 一方、政府の地方創生の取り組みは現在のところ、掛け声倒れの感が否めない。国は政府関係機関の地方移転などを掲げたが、地方が要望した68機関206件のうち、移転は30機関57件のみ。関連の交付金もいつまで続くのか不透明との声も住民から上がる。今回の衆院選でも論戦が盛り上がっているとは言い難い。

 「地域を維持するのは容易ではない。国は住民の取り組みを支え続けてほしい」。同地区総合振興協議会の佐々木正晴会長(69)は訴える。国には地域づくりを支え、地方への人の流れをつくる本気度が問われる。


鍋山地区の農地現況調査の結果について話す秦美幸会長=雲南市三刀屋町乙加宮
地域維持 官民が知恵を

 国道54号に近い三刀屋川沿いの山村にある、人口1400人、高齢化率39・8%の雲南市三刀屋町鍋山地区。住民による地域自主組織・躍動と安らぎの里づくり鍋山は2016年8~10月、農地現況調査をした。

 田畑を緑色、耕作放棄地や空き地を茶色で色分けし、地図化した。緑色が多い国道沿いに比べ、山間部に行くほど茶色のエリアが増える。見えてきたのは集落の限界化だった。

 秦美幸会長(75)は「荒れているのは感覚的に分かっていたが、『見える化』すると危機意識が高まった」と懸念を示した。耕作放棄地が増えて鳥獣被害が広がり、担い手が離れ、人口が減る悪循環に陥りかねない。

 放課後子ども教室や高齢者世帯の見守り活動を兼ねた水道検針事業…。地域の安心・安全を担保する「守り」の取り組みに力を注いできただけに、公表した地図に対し、住民から「周辺は切り捨てられるのか」と不安の声が寄せられた。この地域をどうするか、秦会長は思案する。


余力あるうち行動

 全国の約半数の896市区町村が将来、存続が危ぶまれる消滅可能性都市となる-。地方創生が叫ばれるようになったのは、有識者らでつくる日本創成会議が14年に示した衝撃的なデータがきっかけだった。

 地方からの人口流出が進み、東京都は21年連続で転入者が転出者を上回る「社会増」となり、16年は11万7868人だった。一方、地方は「社会減」に直面する。島根県は16年が472人と16年連続、鳥取県も1091人と15年連続して転出者が転入者を上回った。

 地域の担い手を吸い上げる東京。一方、鍋山地区のように、危機意識を持ち、「縮む地域」の将来を考える動きもある。

 島根県内で地域づくりに携わる島根大教育学部の作野広和教授(過疎・中山間地域論)は「定住対策を考えるには、世帯が減り、余力がなくなってからでは遅い。今のうちから将来どうなるかを考え、行動することが重要だ」と提言する。

 人口減少は、離島にとっても深刻だ。

 松江市美保関町の七類港からフェリーで2時間半の島根県隠岐の島町西郷港。港近くの町商工会で、野村吉秀会長は「漁船が沖に出ること自体が国境を守ることになる」と強調した。念頭には、中国船の領海侵入が常態化する無人の沖縄県・尖閣諸島の現状があった。水産業や観光業といった基幹産業の維持が島の将来を左右する。

 国も手をこまねいているわけではない。4月に有人国境離島特措法が施行された。国による保全に加え、地域社会維持の対策を推し進めることを盛り込んだ。

 離島住民の期待を集めたのが、航路と航空路の運賃低廉化だ。実際、隠岐郡4町村の住民のフェリーや飛行機の運賃は従来の半額程度になった。ただ、交流人口拡大の鍵を握る観光客は対象外。野村会長は「国には大胆な人口の誘導策を実行してほしい」と、一層のてこ入れを要望する。

 国土交通省の推計では50年までに、人が現在住む地域の約2割が無居住化。国土の約5割に人が住んでいるが、それが4割に減る。有人離島のうち約1割が無人になる可能性がある。

 作野教授は「人口が減る中、国のありようをどう考えていくのか。今は三大都市圏に人口の半分が集まっている。地方に目を向ける機運をもっと盛り上げる必要がある」と指摘する。

 都市と地方のバランスを取り、多様性のある国土をいかに維持していくか。人口減少は国土の保全のあり方も問い掛けている。

2017年10月14日 無断転載禁止