世事抄録 おっつぁん

 方言は時として標準語以上に胸に突き刺さることがある。30歳すぎに帰省した折、幼い息子と近所の小学生を交え宍道湖岸へ遊びに行った。子供がいるとはいえ、まだ若者感覚の余韻の中にいたが、小学生が何かの拍子に当方を「おっつぁん」と呼んだ。

 幼いころは相手が30歳ともなればとてつもなく年上に感じ、まさに「おっつぁん」だったが、まさか自分が呼ばれる時が来るとは思いもしなかった。出雲弁で引導を渡され、名実ともに「おっつぁん」になった瞬間だった。

 参加する川柳会では、七、七のお題に五、七、五で答える「前句付け」が課題の一つだが、「出雲弁か方言で」と条件が付く。これがなかなかの難物。何せ40年以上も関西弁にまみれて暮らしていたため出雲弁と疎遠になっており、ベテラン陣の繰り出すディープ過ぎる出雲弁に歯が立たない。

 元をただせば、現在は松江市となった漁村で幼いころ育ち、「わは何言っちょら(お前は何を言っているのか)」「だあかー(馬鹿か)」と悪がき同士で言い合い、「あげ、そげ」の世界にどっぷり漬かっていた。大阪にいた時も、「おっつぁん」並みの出雲弁がふーっと口をつく瞬間もあった。

 「DNAに確かに刻まれているはず」。そう信じて記憶の底の母国語を掘り起しながら、句にまとめる四苦八苦の日々を過ごしている。

(出雲市・呑舟)

2017年11月2日 無断転載禁止