女子ログ 灰色の海

 雲南の山の奥で育った。あまり外出しない家族だったから、10歳になるまで海を見たことがなかった。初めて見たのは、日御碕の近くの海。その日は大雨の後だったのか、水面は灰色に染まっていた。次々と海に飛び込むいとこたちをよそに、私は入るのが怖くて、しばらく浜辺に座っていた。

 その反動か、大人になってからは海が好きになった。育児のためにどこかに移住しようと考えた時もやっぱり海の近くが良いなと思った。そして、瀬戸内の島、直島に住むことにした。信号機が一つしかない人口3千人余りの島。一流のアート作品が至る所で見られ、現代アートの聖地と呼ばれている。外国人観光客が多く、ふと日本にいるのを忘れてしまうほど国際的な場所だ。

 山の中で海や外国に憧れて育った私にとって、夢の延長線上に浮かぶ島。とは言え、現実は厳しい。職探し、住居探しは苦難を極め、そこに島の不便が重くのしかかる。引っ越しを終えた今も、困難は波のように押し寄せる。まだ不安でいっぱいだ。

 10歳の私はあの日、ちゅうちょしつつも灰色の海に飛び込んだ。巨大で生ぬるく、不気味にうねるあの灰色の海。初めての感覚が全身を包んで、それがうれしくて、不思議でくすぐったくて大声で笑っていた。つらい時はあの感覚を思い出し、前に進んでゆこう。

(雲南市出身、香川県直島町在住・ゆかりんご)

2017年11月10日 無断転載禁止