逆走問題編(3)高齢化 軽度認知障害対策が鍵

大田署による逆走対策の講習を受ける高齢者。認知機能低下への対策は急務だ=大田市大田町
 「すれ違った運転者は逆走の事実に気付いていない表情だった」。認知症疾患医療センター指定を受ける敦賀温泉病院(福井県敦賀市)の玉井顯(あきら)院長(63)は5年前、北陸自動車道で高齢夫婦の逆走に遭遇し、間一髪で回避した体験を述懐する。

 国土交通省と高速道路会社によると、2011~16年の逆走件数は70~74歳で年間20件を超え、75~79歳が約40件と最多だった。75歳以上の割合は逆走した運転者の45%を占める。事故や発見に至るまで認識がなかった事案の90%以上が高齢者だった。

 山陰両県も同様だ。13~17年10月末に発見された逆走車は、島根が11件のうち65歳以上1件、70代3件、80代3件。鳥取は6件中、70代4件、80代1件と高齢者の割合が高い。

 今年6月、大田署が実施した高齢者講習。高速道路で逆走車を見つけた、または自分が逆走した経験があると挙手した高齢者が3人いた。逆走しそうになった60代女性は「標識を見落として方向を間違えそうになった」と振り返り、松浦利行交通課長は「標識や路面表示、矢印を見て運転してほしい」と呼び掛けた。


検査での判別困難

 高齢者の特性について国交省の調査に協力する玉井院長は、認知症に進行する恐れがある軽度認知障害(MCI)への対策が鍵になると強調する。

 MCIは、複数の物事を同時にする能力が落ちるなどの症状があるが、免許更新時の認知機能検査で判別するのは難しい。人工知能を搭載した完全自動運転車が、認知機能や逆走を判定する将来を見据え「完全自動運転車の実用化までは、認知機能がどれだけ保たれているかを基準に対策を考える必要がある」と説く。


視覚や音声で警告

 MCI患者の逆走対策については、東日本高速道路と病院、大学による共同研究が進む。健常高齢者とMCI患者約50人に、運転体験機で順走と逆走の動画を示し、逆走に気付くまでの時間を調べたり、目の動きを記録したりしている。

 玉井院長とともに研究に参加する東京大大学院の二瓶美里講師(生活支援工学)は「MCI患者には、適切な情報を適切なタイミングで伝えることが大切だ」と解説する。

 効果的なのは視覚的対策だ。特に進行方向を路面に施す矢印は分かりやすい。ただ、複数の情報から一つを選び出す力が衰えており、標識や看板を多くして情報を与えすぎると混乱して逆効果になりかねない。

 また「逆走注意」との文字だけでは、自身が逆走しているのではなく、前方から逆走車が来ると勘違いする恐れがある。どのような指示が適切なのかはより検証が必要という。

 カーナビや自動料金収受システム(ETC)といった車載器を活用し、音声で逆走を警告する仕組みも有効とされる。家電製品で先行して進む、音の大きさや速さの基礎研究を、高速道路対策にどう応用できるかが課題になる。

 なぜ逆走するのか、難題の答えは見つかっていない。「国が問題意識を持って対策に本腰を入れ始めた。研究者として、逆走車のドライバーにどう気付かせるか。有効な方策を見いだしたい」と二瓶講師。超高齢社会を迎える中で、数ある対策を組み合わせて展開する実行力が逆走撲滅につながる。

2017年11月21日 無断転載禁止