世事抄録 極月

 古希を過ぎると時の流れが早い。もう最終月だ。12月の異称に「極月(ごくづき)」という言葉がある。せわしい流れに老骨むち打たれながら何とかたどり着いた、そんな安堵(あんど)感に「極」の字が重なる。

 定年退職と同時に購入した愛車との付き合いは13年。走行距離は10万キロを超えた。不器用な所有者のせいであちこち負傷し、洗車しても昔の輝きはない。スーパーの駐車場にポツンとたたずむくすんだ銀色が古背広を着た自分に重なる。

 生活の足としてはもちろん、最も世話になったのは往復1200キロの鹿児島への帰省だ。4年前には義母の介護で5往復した。最後はエンジンから「バババババ」と異音を上げて疲労を訴え、アクセルを踏んでも80キロ以上出なくなった。

 その後、手入れをしつつ乗り続け、今年もまた帰省した。これまで片道10時間、1日で帰っていたのを、初めて途中で1泊する行程を組んだ。車の状態を気に掛けたのもあるが、実際は自分の体力の衰えを考慮したのが大きい。急がず、お互いをいたわり合いながら、無事に故郷への旅を終えた。

 帰宅後、丹念に洗車しながら、退職後を共に走った相棒をそろそろ休ませてやるべきかもしれないと思った。次の「極月」を迎えることはないだろう。いとしのナンバー2574。私にとって君は名車であった。

(浜田市・清造)

2017年12月14日 無断転載禁止