世事抄録 君たちはどう生きるか

 編集者で児童文学者として知られる吉野源三郎が、80年前に書いた「君たちはどう生きるか」が再び脚光を浴びている。8月に発売された新装版は21万部、漫画は80万部に達したと先日の新聞に載っていた。

 主人公はコペル君というあだ名の15歳の少年。多感な時期の少年がさまざまな体験を通して成長していく様が共感を呼び幅広い層に読み継がれてきた。

 記事を読んで、京都で出会った夏目文夫弁護士(2006年、80歳で没)を思い出した。夏目さんは生後間もなくポリオにかかり歩行能力を失う。父親は「親の情けで学校に行かせてやる」と言い放ち、年の離れた姉に乳母車で送ってもらい小学校に通った。成績はトップでも父親は進学を許さなかった。部屋をはうと「畳が破れる、着物が傷む」とさえ言われた。

 松葉づえを片手に何年も歩く練習を重ね、講義録を取り寄せ検定試験を突破した。同志社大学神学部に進み牧師となったものの肌に合わず職を辞し、独学で難関の司法試験に挑戦。1969年に弁護士となり、終生弱い立場の人々に寄り添った。

 話を聞く機会があったが、親にもさげすまれた日々を振り返り頬には涙が伝った。孤独を支えたのが、繰り返し読んだ「君たちはどう生きるか」であり、日蓮の言葉「一日も生きておわせば、功徳積もるべし」だったという。

(出雲市・呑舟)

2017年12月28日 無断転載禁止