天皇退位/次代の象徴像を考えよう

 天皇陛下の退位日が「2019年4月30日」に正式に決まり、現行憲法下で初めてとなる逝去によらない代替わりに向けた準備が進められている。宮内庁は先に、退位後に「上皇」「上皇后」となられる天皇、皇后両陛下を支える「上皇職」を新たに設けるなど新体制を発足させるために40人程度の増員が必要になるとの見通しを示した。

 新天皇に即位される皇太子さまのご一家と両陛下が住まいを交換することも発表された。来年1月上旬には、政府の準備組織の初会合が開かれ、退位や即位に伴う儀式の在り方の調整に入る。退位の儀式については皇室典範に規定がないため、天皇の政治関与を禁じる憲法に抵触しないよう慎重に検討を行う。

 陛下は84歳の誕生日を迎え「残された日々、象徴としての務めを果たしながら、次の時代への継承に向けた準備を関係する人々と共に行っていきたい」と語った。昨年8月に退位の意向を伝えたビデオメッセージにあったように「全身全霊」で公務を全うしたいとの思いが強くにじむ。

 ただ、この1年余りを振り返ると、特例法に盛り込む制度設計の検討に多くの時間が費やされ、陛下が身をもって示した象徴天皇の在り方について議論は深まらなかった。平成に次ぐ新たな時代の天皇像をどう描くか。国民一人一人も考えてみるときだろう。

 ビデオメッセージの公表を受けて政府が設置した有識者会議は昨年10月から計14回の会合を重ね、今年4月に一代限りの退位に向けた提言を盛り込んだ最終報告書を安倍晋三首相に提出した。一方で、衆参両院の正副議長が特例法制定を求める国会見解をまとめ、各党派の意見を集約。6月の特例法成立に至った。

 メッセージで陛下は「人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添う」という自ら実践してきた象徴天皇の在り方に触れた。被災地の訪問や太平洋戦争激戦地への慰霊の旅など、憲法が定める国事行為ではない公的行為を重んじてきたが、どうかという問題提起でもあったろう。

 だが有識者会議は議論を避けた。座長代理だった東京大名誉教授の御厨貴氏は「象徴天皇の在り方などの問題はネグレクト(放棄)した」と振り返っている。専門家のヒアリングで保守派から「宮中でお祈りくださるだけで十分」などの意見があり、議論が紛糾すれば退位問題が前に進まない可能性があったという。

 多くの国民は退位を自然に受け入れ、支持したが、「天皇は続くことに意味がある」と反対した人も少なからずいる。天皇観を巡る対立は思いのほか深い。皇位を男系男子で継承していくため、戦後に皇籍を離れた旧宮家の復帰にこだわり、「女系天皇」につながりかねない女性宮家の創設を拒否する意見があるのも、その一例だ。

 象徴天皇はどうあるべきか、何をすべきかなどは、天皇自身の考えや時々の社会情勢によって変わる。退位まで1年4カ月余り。国民的な議論を通じて次代の天皇像を形づくっていくことも必要だ。

 そのためには幅広く意見をくみ上げて、継続的に議論に取り組む場が求められる。それが、皇位の安定継承や皇族減少への対策などの課題について議論を加速させるきっかけにもなるだろう。

2017年12月31日 無断転載禁止