奈良康明さんの言葉

 「慈しみの心は訓練して育ててゆくものである」。昨年12月10日に88歳で死去した奈良康明さんの言葉だ。駒澤大総長などを務めた仏教学者。本紙1面の連載「中村元 慈しみの心」を2015年11月の開始から1年間、執筆いただいた▼誰だって自分を大切に思う。同じように、他者も自分自身を大切に思う。だから、自分と同じように他者のことを考え、思いやりをもって接しよう。これが慈しみの心だ▼とはいえ、さまざまな人と関わる中では腹の立つこともある。凡人には実践が難しいと実感する。奈良さんはそれでいいという。「自分に言い聞かせて努力するうちに、だんだん身についていく」▼慈しみの心を広める「草の根的おせっかい運動」を呼び掛けてもおられた。家庭や職場など身近なところから他者に関心を寄せようとの動き。「死にたい」思いをインターネットでしか明かせない若者がいる。いじめや過労死、監禁事件もやまない。世情を見ると、運動の大切さを痛感する▼奈良さんはインド哲学・仏教学の世界的権威で松江市出身の中村元氏(1912~99年)のまな弟子。高齢で多忙にもかかわらず、ブッダの慈しみの心を広く伝えた中村氏の思いを次代につなぐ企画の趣旨に共鳴し、執筆を快諾してくださった▼入院や海外出張を挟みながらも休むことなく掲載が続いた背景には「先生のおかげで研究者として何とかやってこられた」との恩師への思いがあった。強い絆で結ばれた2人はもうすぐ再会されることだろう。(輔)

2018年1月9日 無断転載禁止