女子ログ 蕎麦前の楽しみ

 このところ、蕎麦前に凝っている。

 「そばまえ」。読んで字のごとく、蕎麦屋の品書きに並ぶ酒肴(しゅこう)だ。例えば卵焼きに焼きのり、板わさなど。蕎麦豆腐なんてのもいい。主役の蕎麦を手繰る前にちょいとつまんで酒でも一杯やろうか…という実に粋な作法だ。

 蕎麦前に凝り出したのには理由があって、最近わが亭主がなかなかうまい蕎麦を打つようになったのである。「む、こりゃお見事」。こうなると女だてらにうまい冷酒でも引っ張り出してきて作法をまねてみたくなるのだ。

 聞けばこれは私に限らず、江戸時代から街角のあちこちで見られた光景だったらしい。当時の蕎麦は、煮売り屋から発展した居酒屋が出す締めのメニュー。注文が入って初めて打ち始めるもので、待ち時間が要った。かの池波正太郎の「鬼平犯科帳」にも、いきなり蕎麦だけ注文してじーっと待つなんていうやぼな描写は見当たらない。まずは酒。そのことである。

 「というわけで、私しゃ蕎麦前の担当。お前さん、頼むよ」「よし来た」。蕎麦を打つ夫の傍ら、ストーブの上でせっせと香ばしい蕎麦みそを練り上げる冬の休日。ささやかなぜいたくの時間が流れる。(大田市・ぽのじ)

2018年1月23日 無断転載禁止