世事抄録 蕪村を通読

 70代になって人生で一番長い約1カ月間入院することになった。天井ばかりぼんやり眺めているだけでは退屈すぎるということで、「蕪村俳句集」(岩波文庫)を持参した。

 ゆったりと流れる時間がふんだんにある。意味のわからない句があっても立ち止まって調べたりすることなく、ふだん小説を読むように始めから終わりまで通読してみた。

 その過程で、蕪村の有名無名さまざまな俳句と出合い、いつしか彼のリズムが私の中にこだましているのだった。また、彼の魅力いっぱいの人物像が徐々に浮き彫りになってきたことは私にとって思いがけないことだった。3、4回読んだ段階で、あまり知られていない句を中心にして私なりに「蕪村俳句65選」を作ってしまった。

 私は今までその道の権威者たちの選んだ有名な俳句ばかりを読んできた。入院を機に蕪村にとても親しみを覚えるようになったことは大きな収穫であった。毎日忙しく過ごしているのであれば、とうていかなわないことと考えられる。私は権威者たちの庇護(ひご)からようやく巣立ち、自由に飛び回れる鳥になったわけである。

 「病院での時間よ、ありがとう」と言いたい。蕪村は俳人であるとともに画家でもある。彼の絵画をじっくりと鑑賞してみたくなった。

(鳥取県大山町・伯耆のウリボウ)

2018年1月25日 無断転載禁止