映画プロデューサーのささやかな日常(53)

映画「人生フルーツ」で心に残った名言~「家は、暮らしの宝石箱でなくてはいけない」
ドキュメンタリーの楽しみ

自分のすぐそばにある現実

 晴れやかに2018年が始まりました。昨年、映画は何本ご覧になったでしょうか? CG満載の大作や有名スターが主演する話題作、小品だけれど心に残る名作…。そんな皆さんの人生に彩りを与えてくれる映画にまつわる情報を、これからもできるだけお伝えしていければと思っています。本年もこの連載にお付き合いいただけると幸いです。

 さっそくですが、昨年僕が最も印象に残り、皆さんにも見ていただきたいと思う作品を紹介します。東海テレビ制作のドキュメンタリー映画『人生フルーツ』です。

 主人公は愛知県春日井市に暮らす90歳の建築家・津端修一さんとその妻・英子さん。修一さんはかつて日本住宅公団で活躍し、1960年代に自然との共生を目指した「高蔵寺ニュータウン」の基本設計をしました。ところがその案は採用されず、効率優先の大規模な団地になってしまいます。その後、修一さんはその団地のそばの土地に自邸を建て、雑木林に囲まれた庭で野菜や果物を育て、英子さんと半ば自給自足の生活を送ることにしました。

 朝起きて、料理し、食べ、果物や野菜の世話をし、そして寝る。夫婦げんかもほとんどない、一見単調に思える生活もこの2人には静かでやさしい日々。観客はいつしか2人と一緒に生活しているような、そして「暮らし」とは何かを改めて考えさせられる魅力的な人生が映し出されます。

 あらすじの通り、特段ドラマチックな展開などはない作品です。しかも小規模の公開にもかかわらず、昨年1月の公開後、先の見えない日本で老後を生きる人々を中心に口コミで伝わり、観客動員数はなんと20万人を超えたそうです。僕が見たのは9月でしたが、シニアの方々で満席でした。

 同じく東海テレビが制作した『ヤクザと憲法』もオススメです。こちらは、とあるヤクザの組にまさかの完全密着。「なぜヤクザになったのか」「選挙権はあるのか?」「そもそも人権はあるのか?」など、ストレートな質問をぶつけながら、ある意味日本社会から絶滅しつつあるマイノリティーともいえるヤクザの日常を切り取っていきます。

 この作品も『人生フルーツ』同様一気に引き込まれ、画面から目が離せませんでした。そこには僕らが想像する劇画チックなヤクザではなく、リアルな悩みも抱えた人間味のある人々がいたのです。

 これらの作品を制作した東海テレビは、これまでにも、冤罪(えんざい)と思われる殺人事件を追及する『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』など、刺激的な作品を作ってきました。

 ドキュメンタリーの良さは、自分の実人生のすぐそばにある現実でありながら、まったく知らなかった事実に触れられるところにあります。ここ数年、良質のドキュメンタリー映画が公開されており、映画界でもまた非常に重要なジャンルになっていくのは間違いないと感じます。これからも見逃せないドキュメンタリー作品、チェックしてみていただければ、きっと映画鑑賞の世界も広がるのではと思います。

(松竹映像本部・映画プロデューサー、米子市出身)

2018年1月26日 無断転載禁止