レッツ連歌(下房桃菴)・4月12日付

挿絵・Azu
 学生時代の国文の同級生に、Y君という快男児がおりました。一学年下の同じ国文のカノジョが卒業するとすぐに結婚。私も披露宴に招かれました。人もうらやむオシドリ夫婦だったのですが、その奥さんが六十になるやならずで急な病に倒れ、あっという間に亡くなってしまいました…。

 三回忌も過ぎたころ、Y君から『望妻歌百首』という追悼歌集が送られてきました。「よい歌が出来上がったときは、心の内にかすかな喜びが湧いてきた」と、「あとがき」にあります。

 その百首の中で、私がいちばん感動した歌が、

  騙(だま)されて口をとがらせくやしがる

   人ゐてこその四月一日

 Y君は根が陽気で、人をからかうのが大好き。奥さんのほうは生真面目で、冗談も真に受けるタイプ。二人をよく知っているだけ、上の句に詠まれた情景が、私にはありありと浮かんできます。そして、不謹慎ながら、Y君のことをうらやましくさえ感じました。

 「レッツ」とは関係のない話を長々と申し述べましたが、いつか皆さんに聞いていただきたいと、前々から思っていたことなのです。

 今回は、この歌の下の句を少し変えて、前句とさせていただきました。

           ◇

 君いてこその四月一日

ダマされたフリしてくれてありがとう(松江)

加茂 京子叱れないやっと見つけたバイト生(松江)原田 充子

場所取りに新入社員こき使い

           (東京・八王子)藤江  正

後任が見つかるまではやってくれ(松江)川津  蛙

ダメ元でドラマチックに告白し (美郷)芦矢 修司

春休みだけどウソつき合える距離(隠岐の島)大田 有子

たわいないウソに付き合う妻と子と

             (隠岐の島)中前さつき

今日からはオレが味噌汁作るから(出雲)岩本ひろ子

母さんの弁当作りも三年め   (浜田)松井 鏡子

長男に暖簾(のれん)引継ぎ楽隠居 (松江)澄川 克治

入社式親子三人参列し     (松江)持田 高行

引っ越しの荷物任せて初出勤  (益田)石川アキオ

冗談をまともに受けて恋に落ち (出雲)栗田  枝

ヘソクリで助けてくれた年度末 (松江)佐々木滋子

十人が一人迎える入社式    (益田)吉川 洋子

一人でもやらねばならぬ歓迎会 (江津)花田 美昭

熟練工再々雇用の辞令受け   (益田)可部 章二

救急車呼んだと逆にダマされて (江津)花田 美昭

引っ越しの荷台にタマのケージ置き

               (美郷)芦矢 敦子

村長は羽織袴(はかま)で船を待ち (雲南)錦織 博子

就活を泣いて笑って支えあい  (出雲)野村たまえ

ほんとうに走らないのか三江線 (江津)大岩 郁夫

山道をともに通った六年間   (松江)岩田 正之

           ◇

 有子さんの「ウソつき合える距離」は、家が近所ということでしょうが、心理的な距離と取ってもおもしろいですね。

 滋子さんの下五は、取って付けたようで、そこがおもしろかった―。

 村長が待っているのは、都会からIターンして役場に赴任してくる青年でしょうか。その人を直接出さずに、「船を待ち」とした表現が光っております。

           ◇

 今度は次の前句に長句(五七五)です。

人が好いのか気が弱いのか

 連歌はフィクションとはいうものの、身近にいるあの人この人をヒントにすることは、一向に差し支えありません。ヒントにしたと言わなきゃいいのです。

 (島根大学名誉教授)

2018年4月12日 無断転載禁止

こども新聞