世事抄録 不味い話

 今から四十余年の昔、東京都の私立男子高校で教育実習の機会を得たことがあるが、あの世が近いよわいともなれば、その時の恥を告白しても差し支えないだろうと思う。

 担当教官に特別活動の時間を1時間やるから何か話をしろという指示を受けた。何しろ東京の高校である。地方の人間が一体何を話そうかと迷ったが、何も小難しい話ではなく、私の住む松江について語ることに決めた。

 遠い昔のことだから、細かい記憶はないが、まず郷土出身の有名人を取り上げた。徳川夢声(活動写真弁士で芸能タレント)、小汀利得(日経新聞社長でテレビの辛口評論家)、映画俳優で渋い名優芦田伸介などなどだったと思うが、こう列挙してみると、松江出身は芦田伸介だけで、当時の松江にはポピュラーな有名人がいなかった。今は、錦織圭選手を筆頭としてポピュラー人が多くあってうれしい限りだ。

 さて、そこで取り上げたのが「不昧(ふまい)公」である。よせばいいのに板書で「不味公」と書いて何だか違う気はしたが、字もへたくそだったので思わず「こりゃまずい公だ」と言ったので、生徒たちにちょっと受けるし、後で担当教官に「それにしても『まずいこう』は良かった」と変な褒め方をされた。「味」ではなく「昧」だと後で知った。いやはや「無知蒙昧(もうまい)」のひとくさりである。

(松江市・変木爺)

2018年4月19日 無断転載禁止