憲法記念日/理念に立脚し統治再建を

 日本国憲法は1947年の施行から71年を迎えた。この1年間、自民党は憲法改正の議論を進め、9条など4項目に関して改正の条文案をまとめた。昨年の憲法記念日に安倍晋三首相(自民党総裁)が提起した2020年の改正憲法施行という目標に向けた議論だ。

 衆参両院で「改憲勢力」が国会発議に必要な3分の2以上の議席を占める中で、自民党が優先項目を絞って改正案をまとめたのは初めてだ。だが改憲論議は1年間で深まったと言えるだろうか。

 国民の間にその機運は高まっていない。共同通信社の郵送世論調査でも明確。自民党の改憲4項目の全てに関し、「反対」や「不要」などの否定的意見が肯定的な意見を上回った。安倍首相の下での改憲に「反対」が61%で、「賛成」の38%を大きく上回ったのは、政権への厳しい視線を反映したものだろう。

 森友、加計学園をめぐる疑惑、財務省の決裁文書改ざんなど相次ぐ不祥事は、民主政治と統治機構への信頼を根底から揺るがせている。民主政治の根幹は「国民主権」だ。それに加え「基本的人権の尊重」「平和主義」という現憲法の基本理念は国民に定着している。

 自民党もこれを堅持するとしている。だが改憲案への厳しい評価は理念が本当に守られているのかという疑念の表れではないか。政治への信頼がなければ、国家の在り方を定める憲法の改正論議は行えない。「信」の回復が何よりも先決である。

 自民党の改憲案への支持はなぜ広がらないのか。説明不足の側面もあろう。だが、より本質的な問題は議論が条文の文言修正に終始し、必要性や緊急性という説得力を伴っていないことだろう。

 9条改正では、首相の提案に沿って戦力不保持を定めた2項を残したまま「必要な自衛のための実力組織」として「自衛隊を保持する」との条文を加える案をまとめた。ただ首相は改正で「自衛隊の任務、権限に変更は生じない」と強調する。ではなぜあえて改正する必要があるのか。

 「必要な自衛の措置」の解釈によっては集団的自衛権の全面的な行使容認につながるとの指摘もある。平和主義からの逸脱にならないか。改憲は対外的メッセージになる。朝鮮半島の平和と安定に向けて各国の模索が進む中で、自衛隊の活動を拡大する9条改正の議論を行うべきか。冷静な判断が求められよう。

 今取り組むべきは統治機構の課題だ。森友、加計問題は政権中枢に近い人が特例的な優遇措置を受けたのではないかという疑惑。権力の行使に制約を課す憲法の精神に反する事案ではないか。国会に提出された公文書の改ざんは国民主権を欺く行為であり、自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)は文民による統制に疑義を突きつけた。

 森友、加計疑惑で追及を受けた首相は昨年、衆院を解散した。首相の解散権や統治の在り方を憲法の理念に立脚して再考する必要がある。

 憲法の基本理念は具体的な規律を定めたものではない。求めているのは、理念に基づいて各条文の意味を考え、実現に向けて何を行うべきかを国民が決めていくという主体的な取り組みだ。何度でも理念に立ち返り、政治や社会のあるべき姿を考え続けたい。

2018年5月3日 無断転載禁止