命を育むたたら製鉄

 鉄と命のつながりを見ると面白い。童謡にヒントがある。「手のひらを太陽にすかしてみれば まっかに流れるぼくの血潮」。赤血球の酸素を体内に運ぶヘモグロビンの働きは鉄分が支えている▼一方、地球の中心部も、鉄でできている。大量の鉄が生み出す強い磁場が、危険な宇宙放射線を遮り地表を安全な環境に保っている。ミクロとマクロ両面で、鉄は人類と多くの生き物を守っている▼人類の文明の発展に貢献してきた鉄づくりで、島根県奥出雲町では今も炎の文化が息づいている。砂鉄と木炭を燃やし鋼を造る日本古来のたたら製鉄。町は独自の地域資源の価値を高めるため、日本農業遺産と世界農業遺産の認定を目指す▼先人たちが創意工夫して、鉄とともに上質な農産品を育んできた。仁多米は、丘を削り砂鉄を得た鉄穴(かんな)流しの跡地に造った棚田で栽培。和牛は江戸時代、松江藩の鉄師が丈夫な体格に品種改良し、木炭を焼くために森林を伐採した跡でソバを育てた▼こうした広がりは世界で類いまれだ。国内外を通じ、鉱毒事件や土壌汚染など本来、鉱山開発と農業は相いれない。有害な重金属を含まない砂鉄ならではの「共存」。森林の伐採地を30年間隔で一巡させ鉄づくりと森の再生を両立させた手法も特筆される▼たたらと農林畜産業が結び付いた資源循環型農業と位置付ける。棚田にはオキナグサやタガメなど豊かな生き物がすみ、森のミツバチがソバの受粉を助ける。国内はもとより世界の舞台でどう評価されるか。楽しみだ。(道)

2018年6月9日 無断転載禁止