日米首脳会談/今後の戦略が問われる

 安倍晋三首相はシンガポールで12日に予定される米朝首脳会談を前に、ワシントンでトランプ大統領と会談した。史上初の米朝会談の直前に大統領と会う狙いは、北朝鮮に対して日本人拉致問題を提起するよう念押しし、北朝鮮の完全な非核化に向け日米の方針を再確認することだった。

 大統領は米朝会談で拉致問題を取り上げると明言。両首脳は、全ての大量破壊兵器とあらゆる射程の弾道ミサイルの完全放棄を定めた国連安全保障理事会決議の履行の必要性を確認した。日本側は会談の目的を一応は果たしたようにみえる。

 だが米朝会談の行方は大統領に任せるしかないのが現状だ。また大統領が提起したとしても、首相が共同記者会見で認めた通り、拉致問題は日本が北朝鮮と直接話し合わなければ解決はできない。米朝会談から日朝協議へとつなげていけるか。日本政府の主体的な取り組みが課題となる。

 大統領は会見で、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談で、1953年から休戦状態にある朝鮮戦争の終結を目指す合意を検討しているとも表明。将来の米朝国交正常化に期待感を示した。

 北東アジア地域の平和と安定に向けて、朝鮮戦争の終結と非核化への行程表策定の協議、弾道ミサイル放棄の確約などの難題を確実に前進させられるか。米朝会談は重い課題を負う。

 日本政府は、拉致・核・ミサイルの包括的な解決を前提に、国交正常化後の日本側の経済協力に言及した2002年の「日朝平壌(ピョンヤン)宣言」に基づいて、米朝会談後の動きにどう関与していけるか。その戦略が問われることになる。

 安倍首相は会見で拉致問題に関し「提起すると約束してもらったことを、うれしく思う」と述べた。だが大統領頼みでなければ拉致協議への展望が描けないのは、日朝間の交渉のパイプが断ち切られている現実の裏返しでもある。

 拉致被害者らの再調査を約束した14年のストックホルム合意以降、交渉は進展せず、北朝鮮は拉致問題は解決済みとの立場だとされる。北朝鮮問題に関与する6カ国協議の枠組みの中で、ロシアも外相を平壌に派遣するなど動く中、日本だけが「蚊帳の外」にあると認めざるを得ない。

 北朝鮮の非核化でも日米は完全に一致していると言えるのか。大統領は当面の制裁解除は否定したが「最大限の圧力という言葉は使わない」と改めて言明。米朝会談が「1回では終わらない」と対話継続の可能性を示唆した。

 首相も会見では「最大限の圧力」の表現を使わず「日米は常に共にある」と大統領に歩調を合わせた格好だ。だが発言を二転三転させる大統領に振り回されてきた実態は否めない。

 大統領頼みの状況は、トランプ流の「取引」に巻き込まれる懸念につながる。特に貿易問題だ。大統領は日米会談の冒頭で「米国は日本から大量の自動車を輸入している」と不満を表明。記者会見でも貿易問題に時間を割き、「安倍首相は米国産の軍用機や農産物などの輸入を増やすと表明した」と述べた。

 日米は経済再生担当相と米通商代表部(USTR)代表による貿易協議の7月開催を決めたが、北朝鮮問題とは切り離し毅然(きぜん)と対応すべきだ。

2018年6月9日 無断転載禁止