日本人拉致問題/この機会生かし打開を

 朝鮮半島の非核化に関する米国と北朝鮮の共同声明は具体性を欠き、今後に課題と懸念を残すものだ。ただ北朝鮮の体制保証を約束した米大統領が、日本人拉致問題を北朝鮮側に提起したことは、一つの転機と捉えるべきだろう。この機会を生かし、膠着(こうちゃく)している拉致問題の打開につなげる戦略的な外交を求めたい。

 安倍晋三首相は米朝会談後、「トランプ大統領の支援を得て、日本が直接北朝鮮と向き合い解決する決意だ」と述べた。拉致は日本の主権に関わる問題であり、米国頼みではなく日本が主体的に解決すべき課題だ。

 政府は事務レベルの接触を重ね、首脳会談につなげていく道筋を模索する。だが最終的な決断は安倍首相と金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長のトップ会談に委ねられるだろう。

 拉致被害者もその家族も高齢化しており、猶予はない。朝鮮半島の平和体制という新たな秩序構築に積極的に関わる中で、拉致問題の解決にどう導いていくか。総合的な戦略が問われる。

 トランプ大統領と金委員長の会談で拉致問題がどう議論されたのかは不明確だ。大統領は会談後の記者会見で拉致問題は「安倍首相の最重要事項であり、確かに取り上げた」としたが、北朝鮮が「問題に取り組むだろう」と述べただけだ。大統領から電話で報告を受けた首相の周辺によると、金委員長は拉致問題が「解決済み」とは言及しなかったという。だが、それ以上のやりとりを政府は明らかにしていない。

 首脳会談を報じた北朝鮮の朝鮮中央通信は拉致問題には触れなかった。人権問題の中でも、米国にとって日本人拉致は、共同声明に盛り込まれた朝鮮戦争の戦没米兵の遺骨収集などと比べ重要度が低いとも指摘される。

 しかし、北朝鮮と対話のパイプが途絶えている日本政府は、この機会を前向きに捉えて交渉を進めるしかない。

 政府は14日に日米韓の外相会談を行い、連携を確認。モンゴルで開かれる国際会議に外務省幹部を派遣し、北朝鮮側と接触する構えだ。8月にシンガポールで開かれる国際会議の機会には日朝外相会談の開催を模索する。

 ロシアのプーチン大統領が9月に極東ウラジオストクで開く経済フォーラムに首相と金委員長を招いており、接触の機会を探ることになろう。

 日朝協議のベースとなるのはやはり2002年の日朝平壌(ピョンヤン)宣言だ。宣言は、日本が過去の植民地支配で多大の損害と苦痛を与えたことに「痛切な反省とおわびの気持ち」を表明。その上で「日本国民の生命と安全に関わる懸案問題」との表現で拉致を取り上げ、核・ミサイル問題との包括的な解決の上に、国交正常化後の北朝鮮への経済協力の実施を表明している。

 その後、安倍政権と金正恩体制下で結ばれた14年のストックホルム合意では拉致被害者の再調査を約束したが、交渉は頓挫した。

 双方の主張の隔たりは大きい。日本側が拉致被害者全員の帰国と真相究明、拉致実行犯の引き渡しを求めているのに対し、北朝鮮側はこれまで「解決済み」と主張してきた。その隔たりを乗り越える交渉は「自らの政権で完全に解決する」と強調してきた安倍首相に重い責任がある。

2018年6月14日 無断転載禁止