歌声喫茶

 古い日本映画を見ると歌声喫茶がよく登場する。昭和30年代に流行し、比較的大きな喫茶店に自然発生的に集まった若者たちがアコーディオンなどに合わせて歌っている。曲のジャンルは幅広いが、なぜかロシア民謡がよく歌われた▼冷戦が厳しくなった時代背景とロシア曲の取り合わせ。場が盛り上がって全員が肩を組んで声を張り上げると、哀調を帯びたロシア民謡が「立て万国の労働者」と呼び掛けてくるようだ▼歌声喫茶の世代が再び参集したような感覚を体験した。雲南市大東町にある古代鉄歌謡館で毎月開かれている「みんなの歌声サロン」に参加してみた。雲南市を中心に30人ぐらい集まり、年のころ70代とみられる人が大半。歌声喫茶全盛期に青春を重ねた世代である▼昭和歌謡の生き字引のような高橋勲館長が選曲した唱歌などを合唱したが、出雲市から来たという男性の声のよく通ること。隣にいた筆者のか細い声はその力強い声量にかき消されるようだった▼聞けば70代で夫婦で合唱を愛好しているという。その張りのある声を聴きながら、カラオケは喉の健康管理に有効という耳鼻科医の言葉を思い出した▼大きな声で歌えば誤嚥(ごえん)を予防できるらしい。誤嚥は深刻な肺炎を引き起こすが、喉を鍛えることで防げるという。音域の広い曲ほど喉の筋肉を使うため、地を這(は)うような低音から高音に転じる発声のトレーニングがお勧め。政治的なメッセージを発する場ともなったかつての歌声喫茶の余韻が、健康づくりを響かせる。(前)

2018年6月28日 無断転載禁止