働き方改革法成立/命と健康を守る運用を

 安倍晋三首相が「労働基準法制定以来、70年ぶりの大改革」と強調する働き方改革関連法が成立した。厚生労働省の労働時間調査で「不適切データ」が次々に見つかり、法案の大きな柱だった裁量労働制の対象業務拡大は全面削除に追い込まれたが、野党の足並みの乱れもあり、成立にこぎ着けた。

 与野党の論戦で最大の対立点となったのは、高収入の一部専門職を労働時間規制の対象から外す高度プロフェッショナル制度(高プロ)の創設だった。野党は「長時間労働や過労死の危険が極めて大きい」などと批判。政府は「働き手のニーズ」を前面に押し出し反論を展開した。

 ところが参院の審議で高プロの必要性を確認するため厚労省がヒアリングした働き手はわずか12人だったことが判明。首相は望む人が多いからではなく、働き方の選択肢として整備すると弁明せざるを得なくなった。この答弁も含め政府側の説明は曖昧さやずさんさが目立った。議論が尽くされたとは言い難い。

 罰則付きの残業時間規制なども未消化の論点が残されている。首相は「多様な働き方を可能にする法制度が制定された」と意義を強調したが、働き手の命と健康を守れるのか。政府は法施行までに改めて説明を重ねる必要がある。

 年収1075万円以上で、本人の同意がある場合に適用される高プロを巡っては、働き手のニーズがあるのか-をはじめ、対象となる職種や健康確保措置などが焦点となった。このうち働き手のニーズについては、厚労省がヒアリングしたのは12人にすぎず、しかも制度設計前に聴いたのは1人だけだったとされ、お粗末というほかない。

 対象職種は金融ディーラーや経営コンサルタントなどが想定されている。加藤勝信厚労相は「年収1千万円以上は給与所得者の3%程度。管理職を除き、業務も絞られるので、さらに限定される」と答弁したことがあるが、具体的には労働政策審議会の議論により、国会審議を経ない省令で定められる。年収要件に含まれる手当の種類などもはっきりしていない。

 このため対象がなし崩し的に拡大していくとの懸念が指摘される。さらに政府は長時間労働を防ぐために「高収入で会社との交渉力がある人」にしか適用しないと強調してきたが「高収入といっても、しょせんはサラリーマン」との声も上がる。

 「時間によらず、成果で評価する制度」とも説明されるが、企業にとっては残業代を払わず長時間働かせることができる仕組みで、「4週間で4日以上」の休日という健康確保措置の実効性にも疑問が残ったままだ。

 法案審議は衆参両院で約30時間ずつ。ただ衆院では野党が出席を拒んだことで実際には質疑が交わされない「空回し」があり、参院では厚生労働委員長の解任決議案で審議が紛糾する場面もあった。そうした中、残業規制で繁忙時に過労死ラインの「月100時間」未満まで時間外労働を認めることの是非などの議論はかすんでしまった。

 首相は「今後も働く人々の目線に立ち、改革を進める」と述べた。労政審だけでなく、広く意見を募り、制度運用の在り方を検討してもらいたい。

2018年7月1日 無断転載禁止